野球場脇の雑木林に入り込んで降り積もった落ち葉をガサゴソいわせて歩いていると、目の前のサクラの株立ちにタイワンリスが現れた。
距離にすれば2~3m。
立ち止まって動きを見つめるが、何やらちょこまかと同じところを動き回るだけで、逃げるそぶりも無く、どこかに姿を消すでもない。
ひょっとしてこちらの姿が見えないのかと、1mほどそっとにじり寄ってみても状況は同じである。
何だか無視されたみたいでそのまま立ち去るのもシャクなので、舌先を使って「チェッチェ」とか「チッチ」という音を出してみると、さすがにキョロキョロし始め、音のする方をしきりに気にするそぶりを見せる。
ボクも調子に乗って「チェッチェ」とか「チッチ」に強弱をつけたり、速度を変えたりして見ると、相手はますます興味を引かれたようにこちらの方角を覗き込むようなそぶりを見せてなかなか愛嬌を感じさせる仕草である。
ポケットにピーナツでも持っていたら2、3粒分けてあげたい気分だったが、そんなものを持って散歩に出るわけがない。
本物の動物好きだったらこの後どうするのかと思いつつ、15分も同じ位置関係でやり合ってもらちの明く話ではない。
おまけに舌先もくたびれてきたし、潮時だなと思ってその場を離れることにした。
数歩離れて振り返ると、リスは正に地上に降りかける場面だった。
まさか後をついてくるってわけじゃあるまいな…
地面の上には乾いた落ち葉が折り重なって積もっている。
そこを動くのだから音がするはず、と聞き耳を立ててみるがカサッという音ひとつ聞こえない。
まるで忍者か何かのように気配を消してしまった。
たったこれだけの話だが、森や林の中と言わず住宅街でも時々出会うタイワンリスは人の姿を見ると「ケンケン」という警戒音を振りまいて姿をさっと消すのが相場である。
その点、出会ったタイワンリスはまだ若い個体で、怖いもの知らずで様々なものに興味を抱く年齢なのかも知れないと思いつつ、「一時の退屈しのぎにはなったな」と足取りが軽くなっていることを感じながらその場を離れたのだった。
同じところを行ったり…
来たり…
ほぼこの画角の範囲の中をちょこまかと動き回るだけで、どこにも逃げようとしない