直木賞作家の高橋治の本で、イワシやアジ、サバなど安くておいしい魚にページを割いていて、これを読んだ縁でこの作家が好きになってほとんど全作品を読んだりもした。
そして何より、この本のおかげでイワシやアジ、サバなどが好きだったために、自分の舌にいささか引け目を感じていたのだが、すっかり自信を取り戻し、「そうだよな、これがほんとの魚だよな」と思えるようになった記念すべき一冊なんである。
この本で食べ方を教えてもらった魚料理はどれも高級料亭などでは決してお目にかかれないものばかりだが、いつも身近にある旬の素材は安くて栄養があり、その上、実においしいんである。
もうかれこれ20年近くになるが、この本で身につけた食べ方は今でもしばしば真似して悦に入っている。
さて、サヨリ。
読み返してみると「自分の舌を信じる男達のサヨリ料理九品」と題してフランス料理のシェフに頼んで創作してもらった料理を8品紹介している。
サヨリのクリュ・バジリコ風味、サヨリのオレンジ煮、サヨリのボールの冷製、サヨリのハーブグリル、サヨリの皮の竹串焼きなどなど。
8品しかないのは「冬が春に移るころなら、最高の料理法は刺身です」だからで、刺し身を加えて9品である。
サヨリは西洋料理にはしばしば登場するそうで、フランス料理においてをや、だそうだ。
刺身にするときに引いた皮を竹串に巻き付けて、軽く塩を振って炙り、レモンの汁を一滴振りかけて食べる。
フランス料理に限らず寿司屋などでも出てくるが、わが家でもたまにやるが、酒の肴には絶好で、絶品である。
このサヨリの項ではフランス料理との相性を強調しているが、当然知っていたであろう“腹黒さ”には、ただの一言も触れていない。
サヨリの美味しさと何の関係があるんだ? とでも言いそうで、そこら辺りはこの作家の美学ともいえ、面目躍如のところのような気がする。
そろそろ旬に入るサヨリの刺し身が食べたくなりましたなぁ。竹串焼きも添えて…。
今夜って手もあるなぁ。
イワシを刺し身にするときは手指だけで捌くこと、マイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシに加えて4種目のキビナゴの美味しさ、九十九里浜に伝わるカタクチイワシの絶品ゴマ漬け、シメサバはレモンの汁に浸してしめること、カワハギを自分で捌いて肝を取り出して刺身を肝和えで食べること、紀伊の志摩に伝わるカツオの「てこねずし」の見た目の美しさと舌に乗せた時の美味しさなど、今でもわが手のうちである。
ただ、イワシの稚魚のシラスについて東日本は生か釜揚げで食べ、西日本はチリメンジャコにして食べるが、チリメンにした方が美味しく、日持ちもすると軍配を上げているのは、いささか同調しかねるのだ。
横浜イングリッシュガーデンの紅梅
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