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平方録

なんだか沈黙の朝なのだ

昨日の夕方、ベランダに通じるガラスの折り戸を全開にして本を読んでいると遠くからあの澄み切ったカナカナの鳴き声が聞こえてきた。

梅雨明け宣言のないまま真夏がやって来ているのだが、このヒグラシの鳴き声が聞こえるということは…
俳句の世界でヒグラシは秋の季語。
これから本格的な夏を謳歌しようという矢先に秋だなんて縁起でもないし、なにもそんなに大急ぎで夏をすっ飛ばすことはない。
とはいっても、別にヒグラシが悪い訳じゃない。あくまで特殊な季語の世界の話だ。
第一、朝夕のヒグラシの鳴き声を聞くと、しみじみ夏だなぁと感じるのは、もう小学生のころから60年この方抱き続けてきている夏の印象で、間違いなく盛夏のものと言っていい。
その鳴き声を1年ぶりに聞いて、やっぱりしみじみ「あぁ、今年も夏がやってきたんだ」と嬉しくなる。

今朝は南の海上にある豆台風の影響なのだろうか、昨夜から続く強めの風のせいだと思うのだが、真っ青な青空が広がっている。
上り始めた朝の陽ざしも空気中の汚れが吹き飛ばされている分、純粋に強烈で、木々の葉のコントラストなどは目に痛いほど。
実に清澄で清明な朝を迎えている。

でも…
ずっと耳を澄ませているのだが、ヒグラシの鳴き声が聞こえてこない。
昨日の夕方の鳴き声は何だったのか。
まさか幻って…
幻聴なわけないだろう。確かに聞いたんだ。
そして…ヒグラシは夜明け寸前の辺りがまだほの暗いうちから鳴き出すが、やがて陽が上がるにつれて鳴き出すはずのアブラゼミなど他のセミの鳴き声も聞こえてこない。
鳥の鳴き声さえ聞こえない…
これでは沈黙の朝、沈黙の夏じゃないの。
一体どうしちゃったというのだろう。

お前の耳は大丈夫かって?
確かにボクの左耳は聞こえない。ある日を境に突発性難聴とやらに襲われ、もうかれこれ半世紀の間ずぅ~っと「ジィ~~~」と切れ目なく耳鳴りが続いている。
神経質な人で、もし気にし始めたら最後、気が狂うんじゃないかと思いたくなるほどのしつこさでまとわり続けている。
けど、そう言う問題じゃない。

時々現れる真白な雲があれよあれよというスピードで流れていく。
セミも鳥も普段と違う何かを感じて沈黙しているのだろうか。
スマホが「ゴゼン ロクジ デス」と声を出して時刻を教えてくれる。
それが合図ってわけではないだろうが、聞き覚えのある小鳥の声が二鳴き三鳴きちょっと聞こえた。
でもそれっきり。
こういう時、耳を澄まして音を拾おうとしている時、ボクの耳鳴りは何と邪魔なことか。

鳥と言えば一昨日の朝、ブログを書いているとバサバサと音がして目の前のトマトの鉢植えに黒いものが引っかかり、近くの手すりに止まったヒヨドリくらいの大きさの親鳥と思しき2羽が心配そうに眺めていた。
ボクが立ってガラス戸に寄ると2羽は慌てて飛び去ったが、トマトにはぼろきれのようなものが引っかかったまま残った。
枯れ葉のようなものが引っかかったのかとのんきに気にもしなかったのだが、しばらくしてバタバタと飛び上がった。

その時になって初めて気付いたのだが、飛行訓練を始めた直後の幼鳥だったのだ。
飛び去ったので、どこかに行ったのだろうと思っていると、またしばらくたって再びバタバタと今度はバラの鉢植えに不時着した。
棘の少ない品種で良かったと思うのだが、幼鳥はボクが写真を撮りに近くまで寄っても声も出さず、ジタバタするでもなくじっとしている。
こちらも別に手出しする理由も必要もないから放っておいたら、また何処かへバタバタと羽をならして飛び去った。
飛び去るというと、どこかさっそうとした感じだが、そういうことではなくて「ジタバタ」という表現がぴったりな、必死でという感じ。

あの幼鳥は元気にスイスイ飛び回れるようになっただろうか。
それにしてもの沈黙の朝だったが、それでも心なしか鳥の鳴き声は増えてきたようだ。
どこかで犬が吠えている。
でもまだセミの声が聞こえてこない。


見出し写真から時系列に04:07、04:19、04:53の撮影
黒雲が吹き飛ばされ、次第に消えながら太陽を出迎えた

一昨日の早朝、バラの鉢植えに不時着した幼鳥。驚かすとかわいそうなので2メートルくらいまでしか近づかなかったが、心細いことだったろう
生憎顔をバラの葉がさえぎってしまったが、眼がこちらを見ている


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