例によってまず横田南嶺管長の無門関提唱。
この日の第三十一則「趙州勘婆」の一節を引用する。
問既に一般、答えも亦相似たり。
飯裏に砂有り、泥中に刺(いばら)有り。
これはまとめの部分なので、これだけ見ても分かりにくいが、曹洞宗を開いた道元禅師の教の一つである「典座教訓」に「喜心、婆心、大心」があり、このうちの婆心とは見返りを求めずに深い情愛を込めた心のことだそうだが、その婆心の大切さを言っているのだという。
老婆心とも言うそうだが、われわれが日常使うおせっかいとは少し意味が違っているようである。
その他人を思いやる慈悲の心、老婆心が大切なのだ、というところがポイントだった。
見返りを求めない心というものを常に心掛けたいと思っているのだが…
2時間目は意識がある中で脳の手術を行う「覚醒下手術」の第一人者、篠浦伸禎医師の登場。
知る人ぞ知る有名な先生だが、集まったじじいとばばあ向けに、まず、どうしたらボケないで暮らしていけるかを説く。
曰く「脳の帯状回というところを鍛えるのが効果的である」と。
帯状回という部分は司令塔の役目をしているところだそうで、これを鍛えるには体幹を鍛えればよいのだという。
その方法として①足裏のツボを刺激する足ツボマッサージ板を踏む②真向法という体操をする③玄米とニンジン、キャベツ、カボチャなどの野菜スープの食事をとる④抗酸化作用のあるファイトケミカルの摂取⑤有酸素運動⑥瞑想すること——などを挙げた。
さらに空手もいいと言い、本人も月1回道場に通っているようだが、これはヨガや太極拳でも代用可能だろう。
つまり食、体、脳を活性化させることでボケを防ごうという趣旨のようである。
この先生は頭が良すぎるのか、早口なうえに一つの話が終わらないうちに次の話を始めようとするものだから、最初の話の語尾と次の話の初めが重なってしまい(そんなわけないか…)、語尾が消え入るものだから話の結論がよく聞き取れないので困った。
円覚寺ゆかりの鈴木大拙の晩年の15年間を秘書として仕えたというアメリカ生まれアメリカ育ちという女性の話は面白かった。
82歳のバアサンで、演題は「もう一度リンゴを」。何のことか想像もつかなかったが、なるほどと納得させられたんである。
16歳の時、ニューヨークのコロンビア大学にやってきた鈴木大拙の講演会を聞きに行った時からの縁だそうである。
大拙の話が終わり、質疑応答に入ったとき、学生の一人が「我々は食べてはだめだと言われたリンゴをかじってしまったアダムの子孫です。でも僕たちは何も悪いことはしていないのにアダムの原罪を背負わされて生きている。どうしたらいいんですか?」と大拙に質問したんだそうである。
反抗期だった彼女も、そうよ、どうしたらいいっていうの?と答えを待った。
大拙は質問を聞き終えると間髪入れずに「もう一度かじりなさい」と答えたんだそうである。
彼女は意味がよく分からずぽかんとしていた、とその時を振り返った。
この後結論に至るまで1時間近く、話は様々なところに飛ぶのだが、思考回路そのものが西欧的なのか、日本人の話法と違っているところなども相まって、ボクとしては面白く聞き入ったものである。
で、話のおしまい近くになって「これ大事な歌なのでしっかりメモしてくださいね」と念を押して口にしたのが、「生きながら 死人となりて なり果てて 思いのままに する技ぞよし」という17世紀の日本の禅僧の歌。
われわれが話す言語もキリスト教も世界は二元論で成り立っているというのが彼女の考えなのだが、二元論の根底にあるものは、この歌にあるように「生きながら死ぬ」ということにほかならず、「即今」というのが真実なんだと主張する。
「それを間髪入れずに答えたのが大拙で、アダムのリンゴが原罪だと言うのなら、すぐにそれを食べてみることだ、と喝破したんです」
彼女はキツネにつままれたような気持ちで大拙のところに行き、教えを乞うたんだそうである。
ただ、考えてみればこれこそが東洋思想というか、東洋思想の中でも禅という教義だから示せた答えであって、およそ2000年に渡って迷える子羊を世に送り出すしかなかった宗派との違いだろう。
こうして16歳の少女は目を覚まされ、大拙と禅の世界に引きづり込まれて行くことになる。
小中高とキリスト教を基本に据えて学校教育を行っているミッション系の学校で育った妻に話したところ、うなずいていたから、何となく身に染みるところがあったんだろうと思う。
さすがに15年間も大拙のそばに仕えただけのことはある。彼女自身がなかなかの哲学者なんである。
岡本美穂子という人で、金沢市にある鈴木大拙館の名誉館長である。
アーチにクレマチスのエミリア・プラターが咲いた。わが家のバラ、クレマチスの中で最も寝坊助である
去年はほかの草花に埋もれてしまって花をつけなかったが、今年はお詫びに肥料を施したせいか、2年ぶりに花を咲かせてくれた
最新の画像もっと見る
最近の「随筆」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事