平方録

「はるか」なるリンゴの魅惑

山形の友人がリンゴを送ってくれた。
サンフジという大きくて、蜜の詰まった甘いリンゴである。最近のリンゴ界の人気スターである。
リンゴスター? どこかで聞いた名ではあるが、たぶん関係ないだろう。

これらの赤い実に交じって、はじめてお目にかかる黄色のリンゴの存在がひときわ目を引いた。
観賞用に送ってくれたわけではないだろうから、さっそく夕食後に食べてみたんである。

……⁉
一口かじってみて、まず感じたのはシャキシャキ感である。
歯切れがいいというかなんというか、舌の回転が滑らかなべらんめえの江戸っ子もかくやと思わせるようなシャキシャキ感である。
江戸っ子を指してチャキチャキのという表現を使う場合があるが、この場面ではシャキシャキが正しいのだ。
でもそれで終わらない。

次に来るのが口いっぱいに広がる得も言われぬ甘味である。
最近の果物の中には人工甘味料でも注射したんではあるまいかと思わせるような、まとわりついてくるような甘さを持ったものがあるが、そういう甘さとは明らかに違っている。
ややではあるが、甘さの中に薄い酸味のような、あえて表現するならば「さわやかな酸味」というものが、そこはかとなく漂うのである。

わが舌がかくも繊細で敏感であったのかとビックリさせられるほど、うまさ、おいしさを覚醒させる味なのである。
こういう味を指して「上品な甘さ」「上品なおいしさ」と表現する向きもあるかもしれないが、それも容認しよう。特に許してしんぜよう。
まず最初にリンゴを二つに割ってみたところ、芯のあたりから中央部分にかけて、蜜がぎっしり詰まっているのが一目で見て取れたから、ある程度のおいしさは想像できたのだが、おいしさの質に於いて、これまで口にしてきたリンゴとは違っていたのである。

「はるか」という名前が付けられていて、聞けば昨年は見かけなかったそうだから、山形県内でも市場に出回るほどの生産量がない貴重品であるらしい。
それだけに友人は値段については口を濁したが、千疋屋の店頭に並べば1個千数百円にはなるはずだという。
さもあらん。おそらくそのくらいの価値はありそうである。
何はともあれ、味もそうだが、見た目の黄色の色合いも含めて、そこはかとない気品を感じさせるリンゴである。

「はるか」は3個いただいたから、残り2個は外の物置に正月まで大切に保存しておいて、孫娘たちがやってきたら味わってもらおうと思う。どんな反応を示すだろうか。



山形から届いた「はるか」。ああ、堂々の存在感ではないか! 七福神と染め抜かれたサンフジも入っていたから、これもお正月用である
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