見出し画像

平方録

姫の激走

アンカーの姫がバトンを受けた時、既にほかの3人は第1コーナーに差し掛かっていてぐんぐんスピードを上げていた。

1学年から4人ずつ選ばれたリレー選手が紅組2組、白組2組に分かれて競う女子リレー。
1年生から4年生まではトラック半周だが、5年生と6年生はトラック1周を駆け抜ける。
健脚自慢の姫にとっては願ったりのひのき舞台なのだが、今年は様子が違った。
姫の組の2年生がバトンを受けた直後にバトンを落としてしまい、そのせいで遅れに遅れてしまっていて、最後の姫にバトンが渡った時は既に絶望的なほどに引き離されてしまっていた。

しかし、そこからが圧巻だったのだ。
バトンを受けた姫が前を行く3人の後を追う。第1コーナーから第2コーナーにかけてのカーブを直線走路のように飛ばしていく。
「あの子っ速~いっ !」。そういう声とともに観客席からは悲鳴のような声が聞こえてくる。
バックストレートに入るとその差はあれよあれよとぐんぐん縮まる。まるで空を掛けるが如し。
何と第3コーナーの入り口付近で追いついてしまったのだ。

そこからは団子状の混戦。
しかも走りにくいカーブを4人が絡み合うように競う。
前に出るためには大回りをして越していかなければならない。
飛ばしに飛ばしてきた姫にはさすがにそこまでの余力はなかったと見えて、混戦のまま最後のカーブを抜けて直線路に出た時にはゴールが目の前に迫ってしまっていた。

結果はバトンを受けた時と変わらず4番目のビリだった。
でも、あそこまで引き離された差を一気に縮めたのは特筆ものだ。
目の中に入れても痛くない孫娘の活躍だったから…というひいき目すぎる目線を考慮に入れても尚、あの韋駄天ぶりはスゴイ ! 称賛に値する。
それをこの目で、同じ空気を吸いながら見てみたかった。

姫が日本に戻って来て通い始めた幼稚園時代から、運動会には欠かさず駆けつけて応援してきたのだ。
もちろん姫はこの間、幼稚園2年間、小学校5年間とリレー選手に選ばれ続けている。
姫も必ず運動会の日にちを電話で知らせてきて、「応援に来てね」と念を押していたのだ。
運動会が終わった夕ご飯の時、ボクがお酒を飲みながリレーの様子を振り返り、姫の走りを激賞すると、姫がはにかみながらもうれしそうな顔をするのを見るのが何よりだったのだ。

今年初めて、その楽しみをコロナに邪魔された。
しかも小学校最後の機会だったのに…
リレーの様子はじいじの楽しみが奪われたのを気遣ってくれた姫と母親がテレビ電話で動画を見せてくれたのだ。
動画だけでもその興奮は伝わってきたのだから、直接グラウンドで応援観戦出来ていたらどれほど応援のし甲斐があったことか。
返す返すも残念でならない。

その韋駄天姫は学校から選抜されて、四国の小さな町なのだが、陸上記録会への出場が決まった。
来週の平日に開かれる記録会は無観客で行われるのでまたしても応援には行けないが、市の陸上競技場で開かれることになっていて、姫は学校単位のリレーとハードル走の2種目に出場するのだという。
都会の中でも原っぱが広がる郊外でも、広々したところに出ると「じいじ、駆けっこしよっ !」とすぐさま走り出していた元気印の子なのだ。

今年の正月に会ったきりだ。それからずぅ~っと会っていない。
今度の正月はどうなるんだろう。
いつもの年のように遊びに来てくれるといいのだが…


(見出し写真は今年春に挿し木して育ったブラッシングアイスバーグが初夏に続いて秋にも花を咲かせた)

コメント一覧

heihoroku
ひろさん ありがとう
気持ちをわかっていただけて…

ボクの孫たちはむしろ年寄りに感染させてしまったら大変だ、と言う気持ちで接触に慎重になっています。
ですから、その気持ちは尊重するしかありません。
着実に成長していると言う事実を持って納得するしか、今のところ手はないのです。
こんなことになるなんて、ちょっと前には想像もできませんでした。
これが過ぎ去れば、またいいことがあると信じています。
ひろ
涙・・・・・
https://blog.ne.jp/hirotosaiseikai
おはようございます。

コロナ禍とはいえ、ほんとにほんとに残念なことですね。
姫さまの今は、今しかなくて、今見なくては・・・眼の前で!
行間から涙がこぼれそうです。

GoTo使って多くの方が移動を始めていますが、孫に会いに行くとしたら、私も躊躇します。孫にはうつしたくないですから。こんな日がいつまで続くのでしょうか。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「随筆」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事