平方録

嘆きのムスターファ

今年、わが家のバラの生育状況はすこぶる良好である。

「すこぶる」という言葉は「大変」とか「至って」とか「よくよく」「極々」「飛び切り」「きわめて」「はなはだ」など探せばいくらでも類語が出てくる中で、ボクが好んで使う言葉といってよい。
状態の優れた状況を指して特にほめそやしたり、いたく気に入った時などに使う場合が多いが、「あいつは『すこぶる』付きでアホだな」とか、けなしたいときにも便利な言葉である。
理由を探すとすれば言葉の響き、リズム、口にするときの語感などが気に入っている、というところだろうか。

その「すこぶる」付きで形容するほど今年のわが家のバラの成長ぶりは順調で、つるバラを含めた13種16本のバラすべてに数えきれないほどたくさんのつぼみが付いて開花を今や遅しと待っているのだ。
トップバッターの「空蝉」は開花寸前だし、多くの品種はおそらく連休中か連休明けごろには開花して初夏の明るい陽光に負けじと輝くことだろう。
例年のことながら、この瞬間を待つ身の幸せというものが急速に膨らんできているのだ。
いわばつぼみの膨らみに正比例して期待と喜びのつぼみも膨らんでいくのである。

あぁ、それが……
突然ですが ♪♪ ヤ ムスターファ ヤ ムスターファ 泣くに泣かれぬムスターファ ♪

昨日、発見してしまったのだ。
開花を待つ多くのつぼみのうちのいくつかが首をダラリと下げてうなだれている姿を。
ひとつや二つなら「そういうこともあるだろうさ」と頷ける部分もあるのだが、数多となるとそうはいかない。
心の内はぞわぞわと波立ち、次いで得も言われぬ正体不明の塊が襲い掛かってくるような不安感に包まれ、どうすることも出来ない。
こんなことってあるのかよ、オイ! と叫びたくなる気分である。

バラゾウムシである。
犯人は分かっているのだ!
別名クロケシツブチョッキリというふざけた名前を持つ体長2、3ミリくらいの小さな虫である。
顔の先にゾウの鼻のような吸汁管をつけ、つぼみの下や若葉の下あたりに管を差し込んで汁を吸うとその上の部分は枯れてしまうのだ。
せめてつぼみの付いていない茎を吸えよと言いたいが、吸うのは決まってつぼみの下なのである。

今月の初めころから数匹を見つけて退治してきたが、姿が小さい上に昼間は葉の付け根などに潜んでいたりするから、そもそも見つけにくいのである。
しばらくは何の被害も出なかったから、春先の捕殺が功を奏しているんだと油断していたかもしれない。
元々奴らの活動が活発化するのはたくさんのつぼみが膨らみ始める今頃からなのだ。

嘆き悲しんでばかりはいられない。
目を凝らしてチョッキリ野郎を探し出さなければならない。
これは戦闘なのである。国会論議もへったくれもないのだ。

ほぼ無農薬でやって来ているから、頼りはオーガニックの薬類と害虫類を探し出すわがマナコが最大の武器である。
農薬を使わないから小鳥やカマキリ、テントウムシ、クモの類がボクに味方して捕殺作戦に参戦してくれるはずである。連合軍なのだ。
今日は雨が降る前に虫メガネを持って庭に出てせん滅作戦を開始したい。

虫メガネって虫を見つけるための道具だったよな。……ん?



真ん中の1本を除いて周囲の4、5本の蕾がだらりと垂れさがっている。その差はつぼみの付いている茎の違いなのだ。チョッキリ野郎に吸われるとこうなってしまう


奥にもだらりと首をうなだれたつぼみが見える。至る所にこのような現象が生じていてボクは〝嘆きのムスターファ〟なのだ
坂本九が歌った「悲しき六十歳」は青島幸男の作詞である。そしてここには「嘆きのウン十歳」


おいたわしや ほぼ開きかけている「空蝉」の花びらにはかじられた跡が


一昨日の22日のブログに掲げたこの写真のつぼみの真上に、よく見ると触角をだらりと下げて長い足を踏ん張っているバッタの類が映っている。つぼみをかじったのはこいつに間違いなかろう。昨日きっちり捕まえ、遠島の島流し処分に処しておいた


こちらの名前のないバラもほぼ開花である。この花はもう少し開くと良い香りが立ってくる。この株でもシャクの仲間が見つかり、別のつぼみが一部かじられる被害が見つかった
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