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平方録

以前の姫に戻ったようだ

「ヤッホ~ じいじ ! 」

玄関のドアを開けるなり小5の姫の元気いっぱいな声が2階にいたボクのところまで響いてきた。
やっと到着したか、遠いからなぁ~。でもよく来たよく来た ! の気分で階下に降り、両肩に手をかけて揺さぶると半開きにした口からアアアアア~と気持ちよさそうな声を漏らして共鳴させる。
普段はあまりやらない行為なのだが、元気いっぱいな様子を見て思わず肩をつかんでしまった。
つかんだ少女の肩は思ったより華奢に感じたが、矛盾を覚悟で言えば、しなり具合の良い、オヤッと思うくらいの力強さを秘めていて、その成長ぶりをうかがわせていたのは発見だった。

「ヤッホ~」は姫とボクの挨拶のマクラに使う合言葉で、1歳から4歳までを過ごしたアメリカにスカイプで週に何度か連絡を取り合う際のコールサインみたいなものだった。
最初使った時は、あまりに遠く離れているので「オ~イ、聞こえるかぁ~」くらいのつもりだったのが、今でも会う時やテレビ電話で話をするときには必ずこの単語で始めるから妙なものだ。

四国の新居浜を午前8時半ころに両親と妹君と一緒に車で出発し、ほぼ10時間かけてやってきた。
松山からの東京行きのヒコーキは夏前から予約でふさがり、ならば車でということになったらしい。
ボクは列車の揺れと鉄と鉄が摩擦する音をBGMに窓外を流れる景色を肴にちびりちびりやりながら移動するのが大好きなのだが…
姫の一家には鉄道旅行という選択肢はないようなのだ。

わが家に到着してからは長女と一人息子の若が加わり、特に一つ違いの若と妹君は運動会のように大はしゃぎしながら汗だくになって走り回っていた。
ボクも巻き込まれ、走り回る2人を通せんぼしたりすると大喜びで、挙句、通せんぼの手を抜くと「もっとちゃんとやって ! 」と叱られるありさまで、ちびっこギャングどもには素直に従うしかなかった。
そこは「うるさい、静かにしろ !」などとは口が裂けても言わないデレつき気味のジジイそのものと言ってよい。

3月下旬に宇都宮から新居浜に引越し、仲良しだったクラスメートたちと別れてどこか浮かない様子だった姫だが、新しい学校ですぐに友達もでき、応援にも駆け付けた5月の運動会ではリレーの選手にも選ばれて活躍するなど、一応安心はしていたのだ。
それでも夏休みにわが家に遊びに来た時、そして10月に「太鼓祭り」という新居浜の伝統的な祭り見物に出かけた時にも、かつて発散させていた底抜けなくらいの天真爛漫さと明るさが影をひそめてしまったような気がしていて、ちょっと気にはなっていたのだ。
ところが、冒頭で記したように「ヤッホ~」を耳にした途端、オヤッと感じたとおり、どうも元の姫に戻ったらしい。
妻に話したところ、同様に感じていたらしく「よかったわ」という。
やっぱりそうなのだ。

なにがどうだったのかは知らない。
でも、あの天真爛漫さと底抜けの明るさが戻ったのなら何も心配はいらない。
とても嬉しい贈り物をもらった気分になっている ♪



木々の葉の芽はまだ固いが、冬至を過ぎ、日脚は再び伸び始めた

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