鶯の 湯殿のぞくや 春の雨 (正岡子規)
雨ばかり降り続き、しかも春だというのに誠に肌寒い。
ソメイヨシノは開花予想を裏切り続けて、寒さに縮こまったまま未だ開花に至らず、いや、開花できずに枝先で宙ぶらりんのまま。
そもそも「春の雨」とか「春雨」という文字を見たら、日本人なら冷たく陰鬱なイメージを持つ人は少なく、逆に少し華やいだというか、心浮き立つ気分で捉えるのではないだろうか。
「月様、雨が…」「よいよい、春雨じゃ、濡れて参ろう」など、その典型で、暖かな小雨に濡れるのをむしろ喜ぶ風情が好ましく思える。
冒頭に掲げた子規の句なども、春の煙るような柔らかな雨が穏やかに降っていてこそ成り立つ描写で、誠になまめかしいというか、といって陰湿ではなく、明るく健康的な光景として印象的である。
これならボクもウグイスに変身して湯殿巡りなどして楽しんでみたい♪
しかし、降り続いているのは、そういう雨に非ずして、冬の「氷雨」「時雨」のような冷たい雨ばかり。
せめて響きの良い「春の雨」や「春雨」を求めて句集でもめくって憂さを晴らそうと思う。
春雨や ゆるい下駄借す 奈良の宿 (与謝蕪村)
千年の古都の黒々とした甍に音もなく降り注ぐ春雨の中を、ゆるい下駄をカランコロン響かせて散策するなんて…しびれるなぁ♪
春雨や 蓑吹きかへす 川柳 (松尾芭蕉)
春雨には時として春につきものの強風とともに降る雨もある
春雨や 窓も一人に 一つずつ (小林一茶)
子どもたちだろう。雨が降り始めてきてその様子を眺めようと、窓ごとに顔が並ぶユーモラスな光景
春雨の かくまで暗く なるものか (高浜虚子)
たしかに、昼間の雨でも「えっ!」と思えるほど暗くなることがある
春雨の 三時も過ぎぬ 四時近き (中村汀女)
長閑な雨を眺めていたら、いつの間にか夕方近くになっていたということのよう
草双紙 探す土蔵や 春の雨 (夏目漱石)
雨で外出もままならず、思い立って蔵に分け入り、しまっておいたはずの草双紙を探すのどかな光景
もう一度蕪村に戻って春雨の句をあれこれ…
物種の 袋ぬらしつ 春のあめ
春雨や 小磯の小貝 ぬるるほど
春雨の 中を流るる 大河かな
春雨に 下駄買ふ初瀬の 法師哉
春雨や 人住みて煙 壁を洩る
こうして名句を並べてみると、春雨っていいもんなんだけどなぁ
わが家の少し大きめの鉢で咲くタチツボスミレ
"鉢入り娘"…ん!?