出来上がったばかりのフキ味噌は、若干だが味噌の焦げた匂いがして日本酒のつまみにはまたとない早春の味である。
わけても、口中に含んで一噛みした途端に広がる独特の苦みは絶品で、関所の通行手形を手に入れた如くに、お酒は誰にも邪魔されることなく、いくらでものどを通り過ぎてゆく。まさに通行自由、通行御免になるのだ。
フキノトウはほんのわずかしか獲れなかったが、これがわが家の庭のものだと思えば、好ましさもひとしおで、ちょうど1年ぶりの味だったわけだが、浅い春をかみしめるに十分である。
初音を聞いたことをブログに書き終えた後、日曜説教坐禅会に出向いた円覚寺の境内でも、心なしか、普段見てきた様子と比べて随分と春めいた気分を味わうことになる。
まず最初にびっくりさせられたのが仏殿前の片隅に植えられている紅梅である。
目にした時、たまたま紅梅にだけ朝日が当たっていたこともあるのだが、そこだけがぽっかりと輝いていて、こんなところに梅が咲いてたっけと改めて思わされるくらい、存在感を際立たせていたのだ。
紅梅自体は盛りを過ぎているのだが、光の演出とは実に見事なものである。
境内を見渡せる龍隠庵の庭に上がってみると、笹薮の上にピンクの花が5輪6輪と咲いているのを見つけた。
梅よりも大きな花で、まだ葉も出ていない株立ちの枝先に花を咲かせている。はて? 何の花だろうと顔を近づけてみるとツツジのようでもあるが、ツツジが咲くのは初夏のはずである。
よく見たら株全体に蕾を持っていて、開きかけてピンクをのぞかせつつある蕾もちらほら見えた。
円覚寺の境内でも日当たりの良い場所だが、こうなってくると狂い咲きというより、単に気の早い株なのかという気もするが、春は賑やかな方がいいのである。
「ミツバツツジ」という小さな札が掛けられていたので、正真正銘のツツジである。自然界にもなかなかしたたかな奴がいるものである。
わが家のバラの中にも、もうすっかり葉を広げている株もあり、この調子で行くと桜が咲き終わるころには咲き出してしまいそうな勢いである。
早咲きのバラだったんだろうかと、首をかしげたくなるが、珍しく寒い冬を過ごした植物たちの中には、日脚が伸び、少し温度が上がってきたこを敏感にとらえ、じっとしていられず、もぞもぞ動き始める奴がいるんである。
初音のブログを「鶯の声を聞きつるあしたより春の心になりにけるかも」という良寛さんの歌を引いて締めくくったのだが、まさにその通り。初音の功徳だろうか、フキ味噌といい、ミツバツツジといい、わが心はまさに「春の心になりにけるかも」と相成ったのである。
円覚寺富陽庵の大きなウメ
〝額縁〟を外して見る富陽庵のウメ。せん定をしないで伸び放題にしているところが珍しい
こちらは仏殿前のきれいにせん定されたウメ
スポットライトが当てられたように輝いて見えた仏殿前の紅梅
龍隠庵境内に時季外れに咲くミツバツツジ
わが家の庭で獲れたフキで作った早春の味のフキ味噌
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