2008年に手に入れた、ロッククライミングなど腕や肩の動きの激しいスポーツ時にもってこいだという黒色の薄手のダウンジャケットを愛用していたのだが、継ぎ目がシームレスでスマートなのだが、接着剤が劣化したらしくほころびが出始めた。
店に聞いたら修理できるという。
当初は若干高めの値段だなぁと思いつつ購入したのだが、こうして不具合が出てくると、さすが地球環境問題に熱心に取り組んでいるメーカーのポリシーもあって、最後まで修理して大切に使うようである。
丁寧に点検してくれて、ほころびは6、7か所に及ぶ事が分かった。
すべて修理は可能で、しかも無料でなおしてくれるという。その姿勢や良し!
ただ「元のように接着剤でというわけにはいきません。糸を使うのでステッチが入りますがよろしいですか」という。
そんな事なら何の問題もない。
機能的に問題ないものを、ちょっとほころびたからと言って、捨てるほうがよっぽどこちらの主義に合わない。
しかも、所々にステッチが入るという事は、かえってお洒落なんじゃないだろうか。
「ノープロブレム。ステッチがアクセントになって、むしろ良いかもね。一つ美的に躍動的に頼むよ」と返事したら、応対した女性スタッフにじっと目を見られて微笑まれた。
ジロリ、とではなかったことは念を押しておきたい。
点検して伝票を用意するまでの間、しばらく店内でもぶらぶらしていてくださいというので、展示されている品々を見ていたら、自然の風合いの手触りを持った短パンに目が止まった。
コットンとヘンプの混紡で、まったくの自然の素材をそのまま使っているためか、ちょっと濃いめのムラのあるベージュ色をしていて、しかも麻が入っているので肌触りがとても涼しげなのだ。
タメツスガメツしていたら、別の女性スタッフが寄ってきて「これからの季節にピッタリで、涼しくて履き心地も満点ですよ。是非試着してみてください」という。
もちろん勧めに従って試着してみたら、なるほど大いに気に入ったのだが、衝動買いは止めておこうと、一旦は店を後にしたのである。
だが「今年の夏は例年にない猛暑らしいよ」とか、「ああいう風合いの短パンは持っていないぞ」とか、私にとっては悪魔のと言うより“天使のささやき”がしきりに聞こえてくる。
この信号を渡ると駅前のバスターミナルだというところまできて、足が止まってしまったのである。
こうなると、再び足を前に動かすのはなかなか骨が折れるものなのだ。
しかも、そこにはそう思っている自分がいるのだから、速乾の強力接着剤を踏んづけてしまったようなもので、足はピクリとも動かなくなってしまった。
このメーカーは買った商品を包んでくれない。女性スタッフに小さく折りたたんでもらい、それをむき出しのまま大事に手に持ってバスに乗って帰ってきたのである。
こうなるべくして…、という必然的な出会いの結果、という事にしておこうと思う。

横浜イングリッシュガーデンのバラの2番花