「あれっ、熊さんまた何を怒ってるんですか?」
「おう、八じゃねぇか。おかしいと思わねぇか」
「だから、何がです」
「国際オリンピック委員会(IOC)のぼったくり殿下だよ」
「えっ? ぼったくり殿下って、五輪を開催する国からむしれるだけ金をむしり取るという悪名高きIOCのバッハ会長の事?」
「おうよ、バッカ会長」
「バッハでしょ?」
「バッカでいいんだよ! あいつは。東京もいいようにぼったくられた」
「じゃそのバッカがどうしたってんです?」
「ウクライナに侵略戦争を仕掛けたロシアとロシアに協力するベラルーシに対して、制裁の一環で両国のスポーツ選手を国際大会から締め出していたんだが、国を代表しない『中立選手』としての大会参加を容認するという方針を決めて発表したんだよ。2024年のパリ五輪の予選も始まるし、五輪参加の道を開こうって寸法さ」
「へぇ~、そりゃぁちょっと『ハイそうですか、そいつはいい考えですね』って賛成する訳にゃあいかないだろうねぇ、熊さん」
「おうよ、そうだろ。すでにウクライナは反発してるよ」
「それが侵略戦争を仕掛けられた側の素直な感情ってもんだよねぇ」
「確かにな、政治とスポーツは別物だよ。切り離して考えるってのがこれまでの常識だったし、学校でもそれがオリンピック精神なんだって習ってきた。でもな、一方的に領土を侵害され、分捕られ、大勢の国民を殺されている側の立場に立ったら、スポーツは別のものだから何事も無かった如くルールに従ってロシアの選手と競いなさいって言われたってなぁ…」
「仮にレスリングとか柔道なんかの格闘技でウクライナとロシアの選手が取っ組みあえるんだろうか。観客だって、どのように応援したらいいか戸惑うに決まってるよねっ、熊さん」
「それに、勝負がついた後に握手して別れて、あぁ、これがスポーツの真の姿だ。実に素晴らしい光景だったとほめたたえ合うんだろうか。ウクライナではロシア軍に虐殺された国民が大勢いるんだろっ!」
「だよねぇ。やっぱり無理があるよねぇ」
「八っつあんよぉ、理想と現実は区別しなくちゃな。そして何より今回の場合、特にパリ五輪からロシアの選手が締め出されるって事実をだな、ロシア国民がちゃんと認識して、ウクライナとの間の戦争を直ちにやめようって世論を盛り上げる方向にもっていくきっかけにしてもらいたいって思うんだよな」
「反戦機運の盛り上げですよね。確かに、プーチンは国民に届く情報を制限して真実を知らせていないけど、東京と北京の五輪に続いてまたも締め出されるってことになれば、少しはヘンだなって気がつくロシア人も増えるんじゃないか?」
「だよな。それなのに制裁を解除して『中立選手ならOK』ってのは間違ったメッセージを送ることになると思うんだよな。国旗を掲げなければそれでいいってもんじゃないだろっ。それが分からないのかなぁ」
「やっぱりバッカ会長ってことか」
「プーチンと仲がいいそうだし、プーチンに頼まれたんだろうよ」
「いずれにしたって、まだバッカの口から制裁解除の理由は語られてないんだから、ちゃんと説明してもらいたいもんだ。説明責任を果たしてもらおうじゃないの」
近所の池と森の公園のニワトコの木の芽がこんなに膨らんでいる