先日行った葛飾柴又でのこと。
帝釈天裏の江戸川べりに出て河川敷にある矢切の渡し場まで歩いていく途中で、ものすごく違和感を感じる光景が目に留まった。
ごみごみした街中を抜けて河川敷に出るとその広々した空間の広がりはその場所だけにとどまらず、はるかかなたの上流から続いてきて、さらに彼方の下流へと果てしないように伸びていて、その清々した感覚はとても気持ちのいいものである。
そういう伸び伸びした雰囲気の中、野球グランドと河川敷内道路を隔てる生垣の上に何やら白と黄色の花が顔をのぞかせて咲いている ?!
ボクの頭の周りをはてなマークがグルグル飛び交う中、近づいていくと花の正体は何とニホンスイセン !
よく見ると生垣は常緑(多分)の灌木と笹(後から生えたんだと思うが…)で構成されていて。生垣全体の高さはボクの腰辺りまであるから70~80cmはあるだろう。
その灌木や笹の根元に植えられた球根から負けじと茎と葉を伸ばし…といったってニホンスイセンの通常の背丈はせいぜい30cm程度だろう。
それがまぁ、いくらなんだって下町の見世物小屋じゃあるまいし、ろくろ首のようにヒョロヒョロ、ヒョロヒョロ伸びに伸びたり、倍以上の背丈を得て灌木の上に顔を出し笹の葉と一緒に並んで花を咲かせている…
新明解国語辞典(三省堂)によると「違和感」とは(一)「生理的(心理的)にしっくり来ないという感覚や、周囲の雰囲気や人間関係とどことなくそぐわないという判断」とあり、さらに(二)として「その人の理想像や価値観から見て、どこかしら食い違っているという印象」と解説している。
ボクの受けた違和感を言葉で解説するなら、まさに(一)と(二)ともにドンピシャリ。
寅さんが旅に出ていなければぜひ見てもらいたかった。
見てもらってどんな顔をするか、どんな感想が口からこぼれるのか…ぜひ聞きたかった。
「なぁ、さくら、よく聞けよ。おっと満男もおいちゃんもおばちゃんも耳の穴かっぽじてよぉ~っく聞くんだよ。コラッ、たこ社長そっぽ向いてんじゃないよ ! いいかい、人間てなぁ決して背伸びなんかしちゃいけねぇ、地道にコツコツコツコツ額に汗水たらして働くもんだ、身の丈に合った暮らしをするんだぞって、お天道様に教わったろ。そうだな、満男 ? 」
「ところがさくら、今日お兄ちゃんはな、大変なものを見ちまったんだよ。どこでって、帝釈天の裏の河川敷よ。それでな、それを見た途端、人間ってのは時には背伸びも必要かもしんねぇってさ、そう思っちゃったんだよこれが。オット、おいちゃん余計な口挟むんじゃないよ、最後までオレの話を聞きなよ」
「いいかい、そのスイセンはな、摩天楼のビル群の中にさ、植わってんだよ。ふつうはさ、それで陽が射さなくて枯れちゃったり生育不要ってやつで花なんか咲きゃしないよ。それがさ、ぐんぐん、ぐんぐん、ろくろっ首のようにな首を伸ばしてさ、ついにはその摩天楼のさ、てっぺんにまで首を出しちゃってよ、辺りを睥睨してんじゃねぇ~か。おいらはさ、そのひたむきで健気なところに打たれたね、心奪われましたね。こんな可憐なスイセンのどこにそんな根性があったんだろうってさ。おいっ満男、勉強してっか? おいちゃん団子は工夫してこねてるかい? こねるものだからってマンネリはだめだよ」
「こらっタコ社長! おめぇんとこの印刷工場もいつまでたってもボロだねぇ、挙句にひろしたちを搾取してんだろ。河川敷に行ってスイセンにお賽銭上げて『あやかれますように』って拝んできたらどうだ ! まっ、おめえのその顔と頭じゃ無理だろうけどさ」
…トカナントカ「男はつらいよ 寅次郎柴又ろくろ首慕情」なんて映画がさ、出来てたかもしれないのになぁ。
ん ? マドンナは誰かって。
浅草の見世物小屋のホレ、首の長~い、名前は何てったっけなぁ…
見出し写真は70~80cmもの高さの生垣のてっぺんに顔をのぞかせて咲くニホンスイセン
こちらはそのアップ写真
右手のグランド脇の生垣がその舞台
江戸川のコンクリートで固めたのり面には芝ザクラが咲いている
芝ザクラって4月下旬ころの花だろ