今は高校生の大きな大会だと競技種目によらず結構盛大な開会式が行われているようだが、今から半世紀前のボクが高校生の時に入場行進が行われるような競技は野球と高校総体くらいではなかったかと思う。
高校総体は様々な種目があるから全種目の選手が開会式に出るわけでなく、各校の代表が校旗を持って参加していたはずだが、サッカー部に所属していたボクたちもそれに出ろと言われて、特段の感激もないまま参加したかすかな記憶があるが、それも3年間で1度きりである。
当時は行進曲に何がかかっていたのかとか、生のブラスバンドが演奏していたという記憶もないから、レコードを回していたんだろうが、何も覚えていない。
「サッカー部の誰か校旗を持って先頭に立て」と引率の教師から言われて、同級生が持ったのだが、そいつが妙に高揚したような顔つきになったのを「へぇ~、こいつそういう奴だったんだ! 」と少し驚いた記憶だけは鮮明に覚えているのは、よほど意外な印象を受けたからだろう。
旗を捧げ持つだけで高揚してしまう奴なんて、ボクには危険な奴にしか見えないのだ。
そいつを先頭に立てたわれわれも他校同様に、にぎにぎしく行進したとは思うのだが、さてどこでやったのと言うことになると多分どこかの陸上競技場だったとは思うのだが、どこだったのか思い出せないし、スタンドの観客の歓呼があった記憶もないから、リハーサルのような観客のいない開会式だったはずである。
当時は野球が別格本山、官幣大社だったから特別で、その他の競技は文字通りその他大勢、十把ひとからげ扱いだったのである。
そんな記憶の断片を重ね合わせながら甲子園から送られてくる入場行進の様子を見ていたわけだが、何校かの生徒たちが手を高く大きく振り上げ、足も大きく膝の高さまで上げながらぎこちなく行進する姿を見ていて、どどこかで見たようなキナ臭さを持った集団の歩き方に似てるんじゃないかと思うのは気の廻しすぎかもしれない。
しかし、自然体で行進する方がよっぽどスマートだと思うし、全国制覇するような学校にあんな不自然な行進をする学校はないんじゃないかと思うのだ。
かくしてボクの入場行進体験は、閑古鳥のなくスタンドの前を白けた思いで歩いただけの記憶しかないが、ぎっしり埋まったスタンドの前を何かやたらと誇らしげに行進する姿を見るにつけ、おめでとうよ、という気持ちの片隅で抵抗感の方が大きく感じられるのは、多分ひがみの類だろう。
猛練習の果てに勝ち取った堂々たる成果なのだから「立派」の一語に尽きるのだが、そういう努力にはるか及ばなかった身には、連中の態度表情にあふれる自信と誇らしさはまぶしすぎる。
だからか、あのボクと同じ年に生まれた夏の高校野球のテーマ曲である「栄冠は君に輝く」の曲が流れてくると胸が苦しくなってしまってしょうがないのだ。
♪ 雲は湧き 光あふれて
天高く 純白の玉
今日ぞ飛ぶ
若人よいざ
まなじりは歓呼に応え
いさぎよし
ほほえむ希望
ああ 栄冠は君に輝く
ボクらには栄冠は輝かなかったけれども、ボクの目にも白い雲がもくもくと沸き起こり、真夏の光がボクたちにもたっぷり降り注いでいたことは体中で感じていた。
だから、この曲は好きだし、この曲を聞いていると今でもジィ~ンとしてしまうのだ。
テレビで眺めていたのは現役高校生諸君の行進ではなくて、半世紀も前の忘却の彼方の自分自身の姿だったとすれば、とんだセンチメンタルジジイである。
台風がはるかかなたを通り過ぎた後のわが家から見る空はようやく青々と晴れ渡った
今朝のアサガオは鉢から零れ落ちそうなくらいに花を咲かせている
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