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ファンタスティック・カップル 第9話(9)
「そうね」ケジュも応じる。「バス代使っていつもパンを買って・・・あなたの自転車で送ってものだわ・・・」
しかし、坂道にかかると自転車はとたんに進まなくなる。コン室長は息切れし、ハアハアッーと喘ぎだす。
ケジュが声かける。
「パング、もう無理よ。ここからは歩きましょう。聞いてる? あなたが乗れ、というから自転車に乗ったけど――すごく寒いし、お尻も痛くなってきたわ」
「大丈夫です」
疲れにめげず、コン室長は意地を張る。
「どんな困難も乗り越えていく自信があります」
「息切れしてるくせに何言ってるのよ」
とうとう自転車は進まなくなってしまった。ケジュはすかさずおりた。
「じゃあ、あそこまでは歩きましょう」
コン室長が前方を指差す。
「もういいわよ」
ケジュはいい頃合だと思って愛想笑いを向ける。室長に切り出す。
「ねえ、パング」
「何?」
「近所にナさんっていう英語が堪能な娘がいるんだけど・・・ホテルに就職させてくれない?」
「えっ? ナさんて・・・」
突然、形相を変える。
――奥様!
室長はケジュを見る。
「ダメです」
「ダメですって?」ケジュはソッポを向いた。「なんだ、偉い人じゃなかったの? もういいわ。じゃあね」
そう言ってケジュは元来た道を引き上げだした。
コン室長はうなだれて彼女を見送った。
「ケジュさん・・・力になれず、すみません・・・」
しかし、発起して彼女の後を追いかけだす。
「ケジュさん、家まで送ります・・・ケジュさ~ん」
「無駄だったかな・・・?」
チョルスは買ってきた携帯で悩みだしている。アンナはここを出ていくかもしれないからだった。
「まあいい・・・サンシルが出ていったら子供らに使わそう」
しかし、一方でもったいない気持ちも働く。
「いや、やっぱり返品しよう・・・!」
そこへアンナが飛び込んでくる。
チョルスはびっくりする。
「急に入ってくるなよ!」
「なんで驚いてるの?」
アンナはチョルスの手にしている物に興味を示す。
「それ、何?」
「えっ? これか?」
目の前に投げ置く。
「お前のだ」
アンナはベッドの縁に腰をおろした。ケースを開けて訊ねた。
「携帯?」
「連絡が取れないと面倒だから・・・必ず持ち歩くようにしろ」
「そうね」アンナは携帯を観察しだす。「これは・・・」
チョルスはアンナに声を合わせた。
「気に入らない。言うと思った。ジュンソクにやるから返せ」
チョルスが手を伸ばすとアンナは返そうとしない。
「イヤよ。どうせ私が使うんだから色を変えるわ」
アンナは携帯を持って立ち上がる。チョルスを促す。
「行くわよ」
チョルスは呆れる。
「まったく・・・態度のでかいやつだ。何でいつも、ああして自信満々なんだ? そこだけは尊敬するよ」
チョルスは買い物袋を持ってベッドを離れた。
ユギョンは大して飲めもしない酒を飲んだ。
酒はまずいだけだった。しかし、飲まずにはいられない。
チョルスの言っていた言葉を思い出す。
――俺のことは思い出さなくていい。記憶なんか、全部置いていけ。その方が幸せになれるさ。
「私は・・・」彼女は自分に言い聞かす。「どこにも行かない! あなたが大事なのに・・・この気持ちを全部伝えたいのに・・・捕まえたいのに・・・」
ユギョンの目からはみるみる涙が溢れ出す。
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