アンナはテラスに出て海を見ていた。
そこへビリーが顔を出した。
「クルーザーはどうなったの？」
「売ったよ」ビリーは答える。「君が事故に遭った船だから見るのもつらかったし」
「あの船さえあれば、もっと早く戻ってこれたわ」
「それはみんなチャン・チョルスのせいだ」ビリーは言った。「チャン・チョルスがウソをつかなければ、もっと早く連れ戻せた」
「そうね。遅すぎたわ」
ビリーはアンナの顔色をうかがった。すぐ明るい表情に戻って言った。
「君が元気になったらアメリカに戻ろう。僕たちはもう元に戻ったんだ」
アンナはビリーを振り返った。
「勘違いしないで。私はあなたの元に戻ったわけじゃないわ」
「…」
「どんな誤解があったにしても、あなたは私を見捨てた」
「アンナ、それはわざとじゃないんだ。本当に誤解があって…それで」
「やめて！」
「…」
「私はまだ――自分のことだけで精一杯よ。私が気持ちの整理をつけた後で、言い訳するなり許しを請うなりしてちょうだい」
アンナはビリーを残して部屋に戻った。
ビリーの顔に不安が浮いた。
部屋に戻ったアンナは鏡の前に座った。自分の顔と姿を見つめ、心を見つめた。
「そうよ、私はチョ・アンナ。私は戻ってきたのよ」
彼女はメークを始めた。
髪をほぐし、口紅をつけアイラインを引いた。マニキュアを塗り、自分のメークに衣装を合わせた。耳飾りをつけ、ネックレスを巻いた。
最後に鏡の前でつぶやいた。
「これが私よ」
アンナがロビーに姿を見せる。スタッフは整列し頭をさげてアンナを出迎える。
彼女は携帯で外国の誰かと話をしながらスタッフの間を進んでくる。やりとりは英悟だった。
「そうよ。私は死んでない。すぐにアメリカに戻るわ。私が生きてたのがあんまり嬉しくないみたい。私が戻ったらみんな卒倒しそうね。それを見るのが楽しみだわ」
コン室長は手を叩いてスタッフに喝を入れた。
「指示に従ってすばやく行動するように」
「はい」
「植物！」
スタッフはすばやく観葉植物を配置する。
「絵画！」
同じく右。
「照明！」
コン室長は額をハンカチでぬぐった。
「あとは何だっけ？」
それもこれもチョ・アンナを迎えるための準備だった。
そしてアンナがやってきた。
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