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韓国ドラマ「30だけど17です」(連載38)

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韓国ドラマ「30だけど17です」(連載38)


「30だけど17です」第4話(壊れたバイオリン)⑧
☆主なキャスト&登場人物


○シン・ヘソン➡(ウ・ソリ)
○ヤン・セジョン➡(コン・ウジン)
○アン・ヒュソプ➡(ユ・チャン)
○イエ・ジウォン➡(ジェニファー(ファン・ミジョン)
○チョ・ヒョンシク➡(ハン・ドクス)
○チョン・ユジン➡(カン・ヒス)
○ユン・ソヌ➡(キム・ヒョンテ)


★★★

 部屋に戻ってきたヒョンテに同僚が言った。
「科長が会うと言ってた。俺のおかげだと感謝しろよ」
 しかし、ヒョンテは元気がない。同僚の前でため息までついた。
 顔を上げた。
「先輩、すみません」
 先輩から目をそらしてヒョンテは話す。
「長期入院の件は―なかったことにしてください」
「なかったこと? 頼んでおいて今さら何を言ってる」
 そこに研修医が飛び込んで来る。
「意識不明の患者が2分後に到着します」
 救命救急科のドクターがすぐさま立ち上がる。
「分かった。行こう」
「20代後半から30代前半の女性です」
 研修医の言葉にヒョンテもあわてて立ち上がった。2人をおいかけて部屋を飛び出していく。
 救命の処置をほどこしているベッドを見つけて覗き込む。
 ソリではなかった。
 ヒョンテに救命救急のドクターは言った。
「何の真似だ、キム先生」
 ヒョンテはほっとしながらベッドから離れた。後ろの壁にもたれてしゃがみ込んだ。
 駆けつけたドクター数人が状態チェックにかかっている。
 ヒョンテを追ってきた同僚は言った。
「おい、どうしたんだ。しっかりしろ」

★★★


 ウジンはコン・ヒスとともに”音楽祭フェスティバル”の関係者会議にしぶしぶ出席した。
 組織委員長の挨拶で会議は始まった。
「私が音楽祭の組織委員長を務めるピョン・ギュチョルです」
 みんな拍手するが、ウジンは自分の作る舞台空間のことで頭が一杯だった。今も豆粒みたいな木に人の顔を描いている。
 カン・ヒスは足でウジンの足を蹴った。委員長の挨拶に拍手もしないでせっせと手作業に励んでいるからだった。

 そこに遅れてリン・キムが駆けつけた。
「遅れてすみません。独奏会の練習で遅くなりました」
「ようやく有名人のご到着だな」とピョン・ギュチョル。
 着席する前にリン・キムは挨拶した。
「クラシックの音楽監督リン・キムです」
 リン・キムと聞いてウジンは顔を上げて彼女を見た。自分の作る舞台と関わるからだった。




 面接が思うように決まらず、ソリは失意に暮れながら街路を歩いた。バイオリンの修理代の工面が覚束ないからだった。
 力ない足取りで歩いて来ると、通りの回覧板に求人募集が貼られている。
「”時給800ウォン”」

 ソリは思わず声をあげた。さっそく該当先のラウンジを訪ねた。
 担当者はソリに説明した。
「週に15時間以上で、週休手当もあります」
「週休…って、給油手当ですか? でも、車は持っていません」
「えっ? 給油ではなくて、週休―お休みのことです」
「ああ~」
 ソリはうな垂れる。
「失礼ですが…お年はお幾つですか?」
「私は17歳…ではなくて30歳です」
 休息をとっていたウジンは面接しているソリを見かけて立ち止まった。

 採用を断られたソリは力を落としてその店を出た。
 面接担当者の説明は”年齢が該当しない”だった。
「29歳の社長より年下が希望ですので、20代までの募集です」


― 30歳で何の職歴もないのですか?
― その年でそんなこともご存じない?
― 子供か? いい年してそれも分からない?


 自分の失った期間がいかに大切な時間だったかを思い知らされながら歩いていると、女学生らが通りで夢中に話し込んでいる。

「あの時、ほんと驚いちゃった」
「一枚、撮るね」
「ちょっと見て、この顔」
「ひどい。ゴリラみたい」

 ソリはそれらのやりとりに自分の記憶を重ねてほほえむ。

 こういう記憶を失ってないだけでも自分はまだしも幸せなのかも…。
 
― すごい顔してるよ。
― 変な話でびっくりしちゃった。
― 私も呆れたけど、笑う子がいた。


 あれは17歳の時…でも私の18歳はどこに? 20歳の頃は?



 自分が夢馳せていた頃から以降の時間は失われたままだ…
 ドイツの華やかな教室で挨拶に立っている自分の世界に想像を巡らしてみる。



「”初めまして、ウ・ソリです。第二バイオリンを担当します”」


 私の叔父や叔母、草葉の陰で眠る両親もそれを知ることができたら、どんなに喜んでくれたことだろう…。

 しかし、凱旋帰国の演奏会を叔父と叔母の前で披露する夢もついに叶うことはなかった。その夢は遠い昔の未完の出来事として閉じられてしまった。

 

 街の公園の広場でソリは深い孤独の時間を過ごした。
 練習帰りのチャンはそんなソリを見かけて声をかけた。
「おばさ~ん」
 何度目かに気づいたソリに手を振った。
「おばさ~ん」
 しかし、ソリにいつもの元気がない。
 チャンは手を振るのをやめた。
「面接はダメだったようだな」
 ソリから話を聞いてチャンは自分のことのように怒った。

「見る目のない人たちだ。17歳で音大に受かった逸材なのに」
 力説してソリを慰めた。
「当然の結果だわ」
 ソリは逆にサバサバしていた。
「こんなにブランクが長ければ、私でも採用しないと思う」
 ソリの話にチャンは何も言えなくなった。
 チャンの手を見てソリは感心する。
 指ダコのできた手を見せてチャンは説明した。

「ボート部なんです。マメだらけでしょう」
「羨ましい」
「…」
「私もそうだった。バイオリンの演奏者もそうです。水ぶくれができて、指はいつもマメだらけ…」
 ソリはマメのない自分の手を見た。目を落としたままになった。
「演奏もできないほど、重い病気にでも?」
「そうなの、長く病院にいた…。でも、ずっと意識不明でその時のことを覚えていません」
「そんな…」
「事故だったんです。13年前、事故に遭って…自分では、まだ17歳のつもりだけど、今日はつくづく”そうじゃないんだ”と思い知らされました」
「…」
「世の中の流れについていけない―変な30歳なんだと」

 話を聞いてチャンはあまりの驚きで、すぐには慰める言葉も思いつかなかった。
 黙り合ったまま時間が流れ、チャンはようやく口を開いた。
「あの…俺が思うに、今どきの30歳はまだまだ若い。早いうちから、何だっけ…挫折か、ああ、そうだ、挫けてなんかいないで前を見てほしい。生きていれば、いい日が必ず来るから。だから」
 ソリはチャンをじっと見た。頷きながら次の言葉を待った。
「それで…」
 チャンに合わせてソリも首を長くし、顔を持ち上げる。
「その…ダメだ」
 頭に手をやった。髪をかいた。
「言葉が出てこない…だから、つまりですね」

「”ガンバレ”ってこと?」
 チャンは頷く。
「はい」

 ソリはチャンの励ましに笑顔を返した。
「ありがとう」

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