東森英彦の反逆者日記

思い付きな日々の追憶

す~っとね

2007-05-25 04:31:00 | モデル/芸能
      「泣けない忍者・鳴かないイヌ」

まだ歳若い忍者に数年前、ある任務が下りた。

「奴を殺せ」

そして彼はその命令を遂行しようと必死だった。
一人前の忍者になろうと必死だった。
その者を観察し、その者を追い、隙を窺った。

いつでも可能だったのかも知れない。
しかし観察し、追い、隙を窺えばそうするほど
自分との距離が近くなればなるほどに
その者との距離が遠のいてしまった。

あとどのくらいすればいいのだろう・・・

手の平、指が小刻みに震え、止まらなかった。
真っ直ぐに悲しみを眺めた。
彼には何も見る事がまだ出来なかった。

奴は奴自身は、何故彼を見過ごす振りをしているのか。
月日は彼をどう思ってるのか。

若い忍者は初めて孤独を感じた。
いや改めて孤独だと感じた。

そして彼は一度、頭の上の板から下りてみた。
すると一匹の犬が近寄ってきた。
その犬は若い忍者を見て何の反応も示さなかった。
違和感がある違和感の無い空気があった。

「奴を殺せ」

彼はその任務の事が彼にはなくてはならないモノだと
何の根拠もなく感じた。
隣にいる空気の様な犬の頭を撫でてやった。
抜けた毛が震える指にまとわりついた。

しばらく経ち、若い忍者はまた頭の上の板を上り始めた。

一瞬あの犬に目をやった。
犬は何も反応しない。
前足で耳の後ろを掻きだした。

若い忍者の口元に少しだけ笑みがこぼれた・・・・・・。