ケセランパサラン読書記 ーそして私の日々ー

◆『大江健三郎自選短編』大江健三郎 著 岩波文庫 と『テロルの決算』 沢木耕太郎 著 文春文庫

  

大江健三郎は、いつでも本屋さんに平積みである。
ノーベル賞作家は、不滅。
この岩波文庫版では、旧版を若干、改訂しているという。

大江健三郎の作品を初めて読んだのは、高校生の時だった。
『死者の奢り』という短編で、大学医学部のアルコールの水槽に保存されている解剖の為の死体を、実習の教材になるものを他の水槽に運搬するというアルバイト学生のはなしだった。
ついその前まで、文学少女気取りで太宰治なんて、読んでいたのだから、もうドヒャー!である。

しかし、この短編以上に衝撃を受けたのが『セヴンティーン』だった。
17歳の右翼少年が、政治家を暗殺するという内容だった。
それは、実際に起きた事件がモデルになっている。

日本社会党という野党の政党があった。
その政党の委員長浅沼稲次郎の演説中に、山口二矢(おとや)という17歳の少年が、演壇に駆け上がり、浅沼を銃剣で刺したのである。
ニュースの画像では、山口二矢が、浅沼稲次郎の身体に突進し、ぶつかっていったように見えた。
浅沼稲次郎が、ゆっくりと崩れていく姿を、覚えている。

多分、一緒にテレビを見ていた、親たち大人が大騒ぎしだろうし、「暗殺」という言葉と、その行為を画面を通してではるが、目撃してしまったという、そういうことにも、衝撃をうけたのかも知れない。
きっと何度も、ニュースで流れたにちがいない。
それで、今もはっきりとその時の画像が、幼かった私の記憶にも、残ったのだろう。

そのようなこともあって、『セヴンティーン』とその続編の『政治少年死す』が、大江のどの作品よりも、興味を持って読んだものだった。

  

そして、沢木耕太郎の『テロルの決算』(1982年)が、出版された。
これを、読んで、山口二矢が、なぜ浅沼稲次郎を暗殺するに至ったかを知った。
傑作である。
ノンフィクションとして、私は素晴らしい作品だと思う。

山口二矢は、父親の転勤のために、中学時代と高校一年までを札幌で過ごしている。
彼が通った中学は、札幌市立柏中学校と言って、豊平川の土手べりにある。
山口二矢は、豊平川の土手に寝転んでは空を見ていた少年だったという。
高校は、キリスト教系の私学へ進学したが、二年生になるとき、やはり父の転勤で東京へ。
ここで、右翼思想のドン、赤尾敏に出会い、心酔。
今で言う、赤尾敏のおっかけになった。

70年の学生運動を周辺で右往左往していた者が、この年齢になって思うことは、実は左翼であろうが右翼であろうが、きっかけだけだ。
走り出したら、必死に、駆け抜けようとする。

10年ぐらい前だろうか。
私は、仕事で、その札幌市立柏中学校を訪れたことがある。
正面の玄関を入ると、トロフィーやら、卒業生で有名になった人の写真とかが飾られている。
思わず、山口二矢の写真を、探してしまう。
あるはずが、ないか……。

校舎の二階の窓からは、豊平川が見える。
山口二矢の眺めた豊平川である。
なにかしら、感慨深いものがあった。

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