幼年童話。
いとうみくには、幼年物の著作も沢山あるが、その中でも特に、ずーっと前に紹介した『キナコ』と、この『ていでん★ちゅういほう』が、特に気に入っているかも。
どの幼年物も、こどもの心裡が、とってもよく描けている。
例えば、『おねえちゃんって、もうたいへん』シリーズ。(岩崎書店)
この作品は、お父さんとお母さんは再婚同士。二人にはそれぞれ、女の子がいて、年齢が上の女の子はお母さんのこどもで、年齢が下だけど、体が大っきい女の子はおとうさんのこども。
おねえちゃんになってしまった女の子のお母さんへの揺れる心の切なさと、新しい家族となった自分より体が大きい妹への思いを描く。読んでいると、大人の私の胸もキュンとさせられる。
大人が子どもを描くと、どうしても、こどもの心になって描くのではなく、大人から見たこどもになってしまうと、かつて、和辻哲郎が、中勘助の『銀の匙』の文庫の解説で書いていた。中勘助は、こどもの心になって描いていると、そこが素晴らしいのだ和辻は言う。
いとうみくも、こどもの心で描いている。
ここが、素晴らしいのだ。
昔は停電がよくあった。
だいたいの家には、太いロウソクが買い置きされていたのではないだろうか。
私の家にもあった。
停電になったとき、卓袱台の、太いローソクの灯りがなんとなく、嬉しくて、ワクワクしたのを覚えている。
子どもは、案外、たいしたことがない程度の非日常には、ワクワクドキドキ、楽しいものだ。
さて、『ていでん★ちゅういほう』である。
お母さんが出掛け、ゲン君とおねえちゃんの二人で、留守番をしているときに、落雷で停電になってしまう。
雷だけでも、怖いにちがいない。
そこへ、停電である。
彼らは、マンションに住んでいる。
マンションの停電は、電気が点かないだけではなく、エレベーターは止まり、水も出なくなる。なので、トイレも使えない。
携帯はバッテリー切れ。
懐中電灯の乾電池はない。
あげくにおねえちゃんは、足をくじく。
この二人にとって、ワクワクドキドキという、たいしたことない程度の非日常は、超えていたにちがいない。
そんな状況で、ゲン君は、奮い立つことになる。
ゲン君は、マンションの非常階段を下りて、乾電池を買いに行く。
そして、ゲン君は、非常階段で、表紙にも描かれている、重そうなキャリーケースを運んでいるおばあちゃんに出会う。
停電というめったにない出来事に遭遇して、必死に対応策を考えて、実行して、ああ、子どもって、こういうふうにおとなになっていくんだなぁ、とつくづく思える作品。
おとなが読んでも、なかなか味わいのある一冊だ。
<追記>
東日本の震災で、私の住むこの北関東の町は計画停電を実施した。
真っ暗な関東平野の夜空には、降るほどの星があった。
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