この物語は、著者、増田俊也の青春自叙伝でもある。
タイトルの通り旧帝国大学七校の柔道大会の話しである。
七帝柔道とは、北大、東北大、東大、名大、京大、阪大、九大の七大学、これらの大学で行われている柔道で、いわゆるオリンピックなどで見る講道館柔道とは、まったく違っていて寝技に特化した特異な柔道である。
そもそもこの発祥は、ほぼ百年前、旧制高等学校、大学予科、高等専門学校などで、行われた寝技中心の柔道で、これは高専柔道と呼ばれ、それ以降、現在は七帝柔道として、延々と、伝わって、一年に一回、柔道大会を開催しているのだ。
開催地は、持ち回りだ各大学で開催されている。
井上靖の自伝的小説に『北の海』(新潮社)という大長編がある。
井上靖、かの金沢四高での、これもまた壮絶な高専柔道記である。
増田は、七帝柔道に憧れて2浪のはて、名古屋から、遠く北海道大学柔道部に入部する。
七帝柔道のルールは、15人の団体戦、一本勝ちのみ、場外なし、参ったなし、という壮絶な試合だ。
このような、柔道が、現代も生き残って、そして、ちゃんと継続され、毎年、血相を変えて、体力の限界を超える練習をし続け、北大、東北大、東大、名大、京大、阪大、九大の団体戦に挑むのである。
現在でも、入試には超高偏差値を誇る大学ばかりである。
その偏差値が、まったくなんの意味も持たず、役にも立たず、ただただ、もくもくと、体力と寝技だけの、極限に挑んでいく。
笑えて、笑えて、哀しい、なぜか、このアホさ加減が、妙に心が響く、物語なのだ。
私の学生時代は、まさに日大、早稲田、東大、京大の新左翼といわれたグループが台頭し、その学生運動、全盛の世代。
その世代から、鑑みると、増田俊也のような、猛吹雪、逆境のなかで、汚い道場で明けても暮れても、柔道ばかりしていた人たちがいることが、驚異の大発見世界だった。
60年の柴田翔も、70年の三田誠広も、ぶっ飛んじゃうね。
観念って、体力実技に負けちゃうんだね。
文学、ここんとこ、要注意ですわ。
さて、北大柔道部。
かつては超弩級をそろえ、圧倒的な力を誇った北大柔道部だが、増田が入部した時は、部員も少なく、連続最下位を続けるどん底の状態だ。
増田は、個性あふれる先輩や同期の友人たちに囲まれ、「練習量が必ず結果に出る。努力は必ず報われるはずだ」という言葉を信じて、七帝柔道での北大柔道部の復活を目指す。
読んでいても爽やかな札幌の青空ではなく、北大という北の地の、原野のように広いキャンパスに吹き荒れる吹雪ばかりが浮かんでくる。
こりゃ、耐えてるわ~、という感じです。
ひたむきに、悩み、苦しみ、笑い、悲しみ、泣き、また笑う、まさに増田俊也の青春グラフティ。
無常なまでに超スポ根モノだが、これが、なんと、読み終わった時、じわぁ~と心に感じるものがあるのです。
騙されたと思って、読んで欲しい一冊です!
私はTVで、柔道の試合を見る度、つい選手の耳に、目がいってしまう。
耳が、餃子のように、なっていると、ほぉー!と、彼の苦難に充ち満ちた鍛錬の日々を思ってしまう。
<余談>
表紙の、大学名の序列、笑った。
北大のすぐ隣が京大で、そして東北大。
で、ずっ~と、遠くの6番目が東大で7番目が九大。
この、距離感というか、序列、チョー主観的且つ北海道的センスの優先順位、妙にわかるなぁ。
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