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1. 合法的な武力行使の要件
2. 要件の確認
3. 日本を含む西側諸国の対応こそが違法
4. ドンバス両共和国の国家承認への非難には根拠がない
5. 一方、西側諸国が過去に行った武力行使は明白な国際法違反
更新履歴
はじめに^
「きょう、これから使わざるをえない方法の他に、ロシアを、そしてロシアの人々を
守る方法は、私たちには1つも残されていない。」
上記は下記のプーチン演説で、(ついに)武力行使に言及した箇所。
【演説全文】ウクライナ侵攻直前 プーチン大統領は何を語った? | NHK
これまで以下の記事で同演説中での国際法への言及箇所について述べてきた。
ウクライナでの武力紛争に関連する国際法 - ある日の気づき
「もっといろんなアニメを見るべき」人が目立つ今日この頃 - ある日の気づき
プーチン演説中の国際法への言及について補足 - ある日の気づき
ロシアの今回の武力行使は、国際法上「集団的自衛権」の発動と言い得るような手順を踏んで
行われた。これはデマでも冗談でもプロパガンダでもなく単なる事実であり、その裏付けとなる
「ロシア視点の国際法解釈」は、基本的に妥当と思われる。
今回は「武力行使以外に問題解決手段がない」というロシア側の認識が正しいとした場合に、
その武力行使を合法化する方法は、今回ロシアが使った手続きしかなかった事を述べたい。
1. 合法的な武力行使の要件^
現行の国際法では、合法的武力行使は次の2種類しかない。
(1) 国連安全保障理事会の議決を経る。
(2) 自衛権の発動。(自衛権には、個別的自衛権と集団的自衛権の2種類がある)。
選択肢 (1) は、米、英、仏の拒否権で潰されるに決まっているので (2) しかなく、
自国が攻撃を受けていないときに発動できるのは「集団的自衛権」しかない。
予備知識:「集団的自衛権」の発動は、「既に攻撃を受けている「同盟国」からの救援要請」が
必要十分条件(国際司法裁判所の判例が根拠。 Wikipedia 「集団的自衛権」の説明も参照)。
上の条件を成立させるためドンバス地方の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」
を正式に「主権国家」として承認し、「同盟国」となるために「友好・協力条約」を締結し、
さらに国会で「批准」も済ませて条約を発効させ、しかる後に両国からの救援要請書簡を受領 ...
という手続きを踏んだ。集団的自衛権を根拠に武力行使を行うには、そうするしかなかった。
なお、国際法解釈の観点からは、上で述べてきた「集団的自衛権」を根拠とする主張の方が
「手堅い」のだが、ロシア視点での安全保障への現実認識からは、NATO のミサイル基地が
ウクライナに存在し得る状況は「国家存立危機事態」であり、より容認し難いものだった。
つまり、「キューバ危機(実はアメリカがトルコにミサイル基地を先に作った事が原因)」で
米ソが妥協しなかった場合のシナリオが、ウクライナでは実現してしまったと言えよう。
↓次記事後半に、ロシアの「最後通牒」を含む武力行使直前の交渉が生々しく描写されている。
https://note.com/ftk2221/n/n1ce01f1200e2
「ロシア、ウクライナへの意図を明かす: 地図が示す残されたもの」
↑この記事中では、「最後通牒」についてゼレンスキーが米英に「お伺い」を立てているし、
2022年3月のイスタンブールでの和平交渉も、米英の圧力で潰えた。
「西側とウクライナは信頼できる交渉相手ではない」と見切りをつけたロシア側としては、
先の記事の地図に示されるように「物理的に「安全距離」を確保する」方針しかなさそうだ。
2. 要件の確認^
以上見てきた事から、「武力行使以外に問題解決手段がない」というロシアの認識が正しく、
かつ最終判断を行ったタイミングに問題がなければ、ロシアの武力行使を批判する根拠は
存在しない(情報源は↑リンク先記事で示したので、以下では要点のみ述べる)。
ウクライナ政府軍の攻撃が激化していた事、その攻撃は戦時国際法に反して、水道などの
重要な生活インフラを破壊するものだった事は、既に確認されている。さらに、大規模な
攻撃が迫っていたとの事前情報(ドンバス側発表とウクライナ政治家のリーク情報)も
あった。事後的にウクライナ政府軍の大規模な攻勢計画書が発見されたとの情報もあり、
適切なタイミングで武力行使を決断したと認めるべきと思われる。
# 2022-10-14 追記: 最近の Unz Reviewの英文記事でも本稿と同趣旨の議論がされている。
Some of Us Don't Think the Russian Invasion Was "Aggression." Here's Why.
強いて国内法での類似した状況を挙げれば、「正当防衛」か「緊急避難」相当と考えられる。
武力行使を遅らせれば、ドンバス民間人の被害が拡大した事に「合理的な疑い」の余地はない。
# 下記の分析記事がある。特に「第4に...」以下が、ギリギリのタイミングだった事を示す。
第三次祖国戦争
「2022年2月24日に始まったロシアのドンバスをファシストの抑圧から解放するための
特別作戦は、ロシア連邦とキエフ政権との間の戦争を意味し、キエフ政権は西側の
圧力によって引き下がろうとしない」
「私は、ロシア政府はこのことをすべて知っていて、欧米が米国とNATOの軍事複合体の経済、
政治、軍事、技術力のすべてを駆使して介入してくるという結果を予見していたと確信して
いる。このような知識があったからこそ、ドンバスは8年もの間、長く厳しい解放を待たなけ
ればならなかった」
「なぜ2022年2月24日に始まったのか?」
「2月24日の特別作戦の発端となったきっかけは4つ」
「まず、ゼレンスキー政権はウクライナをNATO加盟国にすることを望んでいた」
「800年もの間、定期的に西側から侵略を受け、直近の侵略で2700万人の国民が死亡した
のであれば、非武装の緩衝地帯に守ってもらいたいとは思わないだろうか」
「戦後、攻撃的なNATOがあったからこそ、防衛的なワルシャワ条約が結ばれた」
# ↑条約締結日時を比較することで事実と確認できる。
「第二に、ポーランドとルーマニアの米軍基地にミサイルがあり、エストニアのロシアとの
国境でNATO軍がにこやかにパレード ... ウクライナは ... 核武装を ....」
「第三に、アメリカは、... ウクライナに30ほどのバイオラボを設立していた」
「その目的は?ロシア人を感染させるための遺伝子操作によるウイルスを見つけること」
# 研究所の存在自体はアメリカも認めた。数が46 とあるが、2ケタな事は上と共通。e.g.
# 資金源、設置状況、伝えられる研究内容からは 「生物兵器研究」にしか見えないわけだが、
# 西側主流メディアでは報道されない。
「第4に、... NATOに操られ、指示を受け、武装したキエフ軍は、ロシアのドンバスに侵攻
してその人々を大量虐殺する計画を立てていた。もし彼らが成功していたら、ロシアとの
国境で止まっていたかは疑わしい」
# 下記にも、同趣旨の状況要約記事がある。
ウクライナを売った男
「NATO加盟に関する、あらゆる話、核兵器製造の話、致命的兵器の着実な準備、東部への部隊の
動きのあらゆる話、ミンスク条約実行拒否とプーチンの安全保障要求の拒否。これら全てが
意図的挑発だった」
# これらの分析はプーチンの2023年の年次教書演説で示されたロシア側の認識と一致している。
3. 日本を含む西側諸国の対応こそが違法^
すると、西側諸国による「制裁」の方こそが「いわれなき突然の不当な攻撃」になる。
経済制裁に関する明文規定は存在しないが、国際法において「国内法の考え方を準用する」
事が増えているし、国際関係上の信義則の観点から、いわゆる「資産凍結」は、違法では
なかろうか。
敢えて国内法と対応させると窃盗行為になる。あたかも正当な権限のある機関が行う「没収」に
相当するかのように使用されているが、国際法は対等な主権国家間関係がベース。
主権国家に帰属する資産を、特別な根拠法もなく「凍結」するのは、重大な主権侵害。
ただ、「資産凍結」を「戦争行為 (act of war)」と見れば、それについて主権侵害を云々しても
始まらない。少なくともアメリカやいくつかの西欧諸国は「武力行使はなし」での戦争の積りに
見える。
しかし、いずれにしても、資産凍結をしておいて「非友好国」に指定されたら、不当だと言って
騒ぐこの国は、何様の積りなのか分からない。先に重大な主権侵害か戦争行為のどちらかになる
ことを、交戦中の国の一つにした以上、即刻「交戦国(敵)」と認定されても仕方がない。
「非友好国」とオブラードに包んだ表現にしてあるだけで、戦時国際法上の「中立国」の立場を
放棄したと見なされたのに気が付かないとは情けない限り。
4. ドンバス両共和国の国家承認への非難には根拠がない^
ロシアが「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を承認した事への批判を目にする
ことが多い。しかし、これら2国は、下記の記事で見たとおり国家の要件を満たしているので、
承認自体に国際法上の問題があるかのような主張は、明らかな間違い。「国境線不変更原則」は
コソボ独立に関連して出された国際司法裁判所の「勧告的意見」で絶対的原則ではなくなった
のだから、「国境線不変更原則」を無条件に前提とする主張も間違いだと、何度か述べてきた。
ドンバスの2つの人民共和国 - ある日の気づき
独立の是非を問う住民投票が「ウクライナ憲法違反」とか「法的有効性がない」とかの
「国内法の論理」を持ち出す議論などは噴飯もの。国際問題化してしまった現実を無視した
「脳内お花畑」を開陳しても仕方がない。なお、「コソボ独立」の事例を知らずに言ってる
なら、「無知の極み」、知ってて言ってるなら、「無恥の極み」である。
そもそも「国内法の論理」を適用すれば、どんな独立も違法という事になることくらい、
言ってる途中で気が付きそうなものだ。
5. 一方、西側諸国が過去に行った武力行使は明白な国際法違反^
ここまで長々と議論しておいて今更であるが、そもそも、ロシアの今回の武力行使に適用して
きたような綿密な妥当性検証に耐えられる武力行使は、西側諸国には見られない。
アメリカを筆頭にNATO諸国が、国際法(「武力行使禁止原則」や「戦時国際法」)など
気にもせず、勝手気儘に(=国際法の観点から違法な方法で)武力行使してきたので、
結果からは「単なる無法」としか言いようがなくなるのが常だった。
上記の合法的武力行使を除く武力行使は、全部違法(「武力行使禁止原則」)という
ところで既に引っ掛かるし、通常運転で「戦時国際法(の民間被害最小化努力義務)」に
違反するのが、「アメリカ+NATO標準」。
結果が酷すぎて、もはや「戦争犯罪」としか形容できない例の一つが、イラク戦争。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8459/
「イラク戦争の犠牲者は推定50万人
2013.10.17」
当時イラクの人口は2000万人強くらい。そこで、第二次大戦末期の都市空襲に比肩しうる死者を
出したのでは、戦時国際法が示す「巻き添えが最小限になるように努力」をしたはずがない。
戦時国際法#交戦法規 - Wikipedia
「...
攻撃実行においては主に3つの規則が存在する。第1に軍人と文民、軍事目標と民用物を区別
せずに行う無差別攻撃の禁止を定めている。これによって第二次世界大戦において見られた
住宅地や文教施設、宗教施設を含む都市圏に対する戦略爆撃は違法化されている。第2に文民と
民用物への被害を最小化することである。軍事作戦においては文民や民用物が巻き添えになる
ことは不可避であるが、攻撃実行にあたっては、その巻き添えが最小限になるように努力し、
攻撃によって得られる軍事的利益と巻き添えとなる被害の比例性原則に基づいて行われなければ
ならない。....
」