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ドナルド・トランプの就任演説とファシズムの兆候

2025-01-24 08:38:52 | 時事

アメリカの大統領就任演説を、ジョージ・ワシントンからドナルド・トランプまで目を通しているが、就任演説の歴史上、"baby"という単語が出て来たのはこれが初めてだ。もちろん、baby formula(粉ミルク)などのような使われ方ではなく、「カモン、ベイビー」のそれに近い。具体的には、We will drill, baby, drill. の部分である。「イェーイ、俺たちは掘りまくるぜ」というような意味だ。この表現を挟んで、直前に「インフレ危機が過剰な財政支出と燃料費の高騰によって引き起こされている」という文言が出てきて、後段は「我々は、他の製造業国家が決して得られない、地球上のどの国よりも多くの石油とガスを持っている」という文脈だから、「掘る」の目的語が、石油や天然ガスなどの化石燃料やレアアースなどの天然資源をさしているのは明らかだ。「我々」が、アメリカだけを意味しているのかというと、そんなわけがない。トランプは、昨年秋の当選から、正式就任に至る過程で、「グリーンランドの領有」や「カナダの併合」などに言及してきたが、いずれも豊富な天然資源を有し、北極航路の要衝として重要な戦略的意味を持つ地域である。アメリカは、ラテンアメリカを自国に従属する「裏庭」として扱う政策を一環して維持してきたし(モンロー主義)、カナダ併合論は19世紀の膨張主義の時代にもあった。トランプが就任演説で言及した「明白なる運命」は、アメリカの植民地主義と拡張主義を代表する標語である。だから、実際にグリーンランドを「買収」して、カナダを「併合」するかどうかは別にしても、トランプの発言は、これらの地域を抑えて、ロシアと中国を制し、帝国主義国家としてのアメリカの覇権を維持するという明確な意思表示と言える。西アジアにおいても、アメリカはシリアの一部を不法に占拠して、原油を盗掘している。

バイデンは任期終了間際に、キューバを「テロ支援国家リスト」から外したが、トランプはそれを就任直後にもとに戻した。トランプは、第一次政権期も、オバマが「テロ支援国家リスト」から外したキューバを、すぐにリストに戻しているが、バイデンは、任期終了間際までそれを維持していた。このことからも、バイデンの行為自体が、単なる政治的ジェスチャーに過ぎないことがわかる。そもそも、この「テロ支援国家リスト」なるもの自体が、アメリカが政権転覆を目論む国家をターゲットにした、戦略上の都合による政治的なものに過ぎない。

従って、トランプのもう一つのターゲットは、メキシコ、パナマ、キューバ、ベネズエラなどのラテンアメリカである。バイデン政権期から、マジョリー・テイラー・グリーンやリンジー・グラハムらの共和党強硬派が、「麻薬カルテル」の取り締まりを名目にしたメキシコへの軍事介入を煽っていたが、トランプは、「カルテル」を「『外国の支援するテロ組織』に指定する大統領令に署名する」と明言している。第二期トランプ政権の国務長官マルコ・ルビオは、第一次トランプ政権期にベネズエラ侵略を主張した人物だが、第二次トランプ政権のベネズエラ介入工作は激化が予想され、何らかの軍事的介入が行われる可能性も否定できない。また、トランプ政権のラテンアメリカへの介入姿勢は、ラテンアメリカで経済的な影響力を増しつつある中国を抑えるためのものでもある。トランプは、メキシコ湾を「アメリカ湾」に改名すると豪語し、「パナマ運河を運営しているのは中国だ」などというデマを飛ばして、パナマに介入してパナマ運河を掌握する意図を臆面もなく披露した。

歴史的に見た場合、アメリカのこのように動きは、それほど驚くべきものではない。トランプのヒーローは、インディアン強制移住法で有名なアンドリュー・ジャクソンだと言われるが、この度の就任演説では、ウィリアム・マッキンリーを引き合いに出している。アメリカは、マッキンリー政権下の米西戦争(1898年)において、キューバ独立戦争に介入してキューバを保護国化し、ハワイを併合し、グアム、プエルトリコ、フィリピンを領有してカリブ海地域を掌握し、フィリピンを植民地とすることによって、アジアに影響力を拡大する足掛かりを得た。現今、アメリカは、グアムにアンダーセン空軍基地を有し、ハワイに第七艦隊を置き、日本及び韓国を事実上の「兵営国家」として利用し、フィリピンを使って中国に揺さぶりをかけているが、これらは、今日のアメリカが1898年以降の帝国主義的展開の延長線上にあることを意味している。1898年は、アメリカ帝国主義を象徴する年であり、トランプがマッキンリーに言及したのには歴史的な理由がある。

トランプは、2017年の就任演説で、「他国の国境を守って、自国の国境をおろそかにしている」という言葉を使っていたが、この度も似たような文句が登場する。第一次政権時には、これが朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)との交渉となって現れたが、ネオコンの介入に屈して頓挫した。あの当時と現在とでは、国際環境があまりにも違っている。ウクライナ戦争ではロシアが主導権を握っており、そのロシアは朝鮮と強固な関係を築いている。国際社会は多極化への方向へと動いており、経済的重心もG7から中ロを中心としたブロックに移動しつつある。朝鮮も中国も、そのことをよく理解している。あらゆるアメリカの動きは、自国の覇権維持のために、戦略的な意図を持って行われるものである。そのことは、誰が大統領になっても、変わることはない。

英語に、crumbs from the rich man's tableという聖書由来の慣用句があるが、人々が求めているのは、富者の食卓から零れ落ちてくる「パンくず」ではなく、「パン」そのものである。資本主義は本質的に搾取と収奪にもとづく経済システムであり、トランプは、それを明け透けに言っているだけのことで、民主党もその点では大差がない。かりにトランプが、言っていることの全てを実行したとしても、それで一般のアメリカ人が豊かになるわけではないし、アメリカや西側の衰退に歯止めがかかるわけでもないが、弾圧の危険を冒して既存のシステムに挑戦するよりは、おこぼれに預かりたいと思う人が多いわけだし、「持てる者」は、持っているものを手放したくはない。ファシズムは、少数の「悪者」によって成立するわけではなく、それを支える分厚い層があり、それは保守であるとリベラルであるとを問わないのである。アメリカのみならず、西側民主主義国全体にファシズムの兆候が見られる。


「朝鮮派兵説」の虚構

2025-01-10 13:18:33 | 時事

多国間の軍事連携は相互運用性が重要で、高いレベルでそれを達成するためには、度重なる合同訓練が必要だ。米韓が毎年やっているのは、まさにその相互運用性を高めるためで、朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)の体制転覆、さらには中国攻撃を想定しているものだ。日本と韓国は、アメリカがアジアで覇権を維持するために必要な事実上の兵営国家であり、アメリカにとっての日韓の存在は、まさにそのためにあるのであって、日韓がその機能を果たさないのならば、アメリカにとっての両国は「有用価値」のないものと言っても過言ではない。米韓は、平壌を狙って日夜合同訓練を重ねているのだから、朝鮮としては防衛態勢を解くわけには行かず、常時即応できる状態にあるのは素人でも想像できることだ。一方、朝ロは包括的戦略パートナーシップ条約の発効(2024年12月5日)により、事実上の同盟関係となったが、これまで合同訓練のようなものを行ってきているわけではなく、相互運用性の面では日韓米に後れを取っているだろう。

以上が、今も流通している「朝鮮派兵説」が虚構である理由のもっともたるものだ。メディアが盛んに喧伝して、今や既成事実となってしまった「朝鮮派兵説」だが、戦争はチェス盤の上のゲームではない。実際に砲弾が飛び交い、命のやり取りをしているわけだから、作戦指揮系統を共有せず、言語も異なり、相互運用性に疑問符の付く外国の軍隊を、重要なクルクスの戦線に投入するなどということはあり得ない。ロシアはクルクス戦線でウクライナ軍を壊滅寸前に追い込んでいるが、クルスクは第二次世界大戦時のナチスドイツとの戦いでも、戦況のターニングポイントとなった、ロシア人にとっては歴史的にも重要な地域であり、外国の軍隊に任せるなどということはあり得ない。

昨年の夏から秋にかけて、米韓は北方限界線に向けて度重なる威嚇射撃を行ったり、ドローンを平壌に飛ばしたり、朝鮮に対する軍事挑発を繰り返したが、朝鮮はその挑発に乗らなかった。こうした「キエフーソウルーワシントン」のラインが行っていることについて、朝ロが緊密に情報交換をしていなかったなどということはあり得ず、朝鮮側は米韓ウの意図を十分見抜いていたと考えられる。「戒厳令事態」で明らかとなったのは、偽旗まで上げて、朝鮮を戦争に誘い込もうとしていたのは米韓であって、朝鮮半島は明日にでもそのようなことが起きうる地政学的なホットスポットなのだから、朝鮮が一万を超える人民軍兵士を遠く離れたヨーロッパの戦場に送るなどということは考えられない。

プーチンが平壌を訪問して、包括的戦略パートナーシップ条約に署名したのは去年の6月19日のことだったが、メディアが「朝鮮派兵説」を流布し始めたのもそのころである。「朝鮮派兵説」が集中的に流され始めるのは、同年の10月以降である。それから、12月3日の「戒厳令事態」に至るまで、「戦闘の拡大を招く重大な行為」「アジアに向けた紛争の輸出だ」(フランスバロ外相、10月19日)、「危険で非常に懸念すべき展開」(米ロバート・ウッド国連代理大使、10月22日)、「他国を巻き込む可能性がある」(米オースティン国防長官、10月30日)「インド太平洋地域のパートナー国と連携を深め、ともに脅威に対抗していく」(NATOルッテ事務総長、11月6日)、「断固とした対応が必要」(米ブリンケン国務長官、11月13日)、「深刻なエスカレーション」(独オラフ・シュルツ首相、11月16日)などと、NATOや西側諸国が段階的に情勢を煽っているのが明らかだ。

一方、ウクライナも、「各国に対抗措置を取るよう訴える」(ゼレンスキー、10月20日)「北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻に関与している証拠に背を向けることなく対応するよう求める」(ゼレンスキー、10月22日)、「他国を巻き込もうとしている」(ウクライナ・マトビヤンコ報道官、10月23日)、「不安定化する世界の新たな一ページを開いた」(ゼレンスキー、11月5日)などと煽っており、これはドンバスやクルスクの戦線に韓国を動員しようとする意図にもとづいたものとの合理的推論が可能である。韓国も、「露軍の軍服と武器、身元を隠すためロシアのIDカードを支給された」(黄浚局国連大使、10月22日)、「北朝鮮軍のウクライナからの『即時撤退』を求め、ウクライナへの直接的な武器供給を検討していることも警告」(10月末)、「韓国軍からウクライナに戦況のモニタリングや分析を行う代表団を送る」(金龍顕国防相、10月30日)などと、キエフやワシントンと歩調を合わせて、段階的に行動のレベルを上げようとしていることが伺える。事実、「朝鮮派兵説」にかかわるほとんど全ての情報の発信源が、ウクライナ国防情報総局及びウクライナ国家安全保障委員会所属虚偽情報対策センター、韓国国家情報院で、これらが緊密に連携して「朝鮮派兵説」を拡散し、西側諸国が結託して、「世界を不安定化させているのは朝ロである」とする世論形成を行うと当時に、軍事的なハードも動かす準備をしていたと考えるのが最も合理的だ。

アメリカの関与を否定する言論が見られるが、アメリカが背後で糸を引いていないと考えるのは無理がある。なぜならば、かりに朝鮮が米韓の挑発に応じていたら、米軍は直ちに防衛準備態勢(デフコン3)となり、その瞬間に、韓国軍は米軍の指揮統制下に入るからだ。自動的にそうなるのだから、そのようなことをワシントンの意図に忠実に行動してきたソウルが単独で行うことは考えにくい。アメリカにとっては、アメリカ主導の覇権秩序である「ルールにもとづいた秩序」に背かない限りは、尹錫悦であろうが、「戒厳令阻止」であろうが、「賞賛すべき民主主義」なのである。「ルールにもとづいた秩序」にマイナスに働くような事態が生じてくれば、それはたちまち「従北勢力の浸透」となり、弾圧の対象となる。だから、朝鮮日報や中央日報のような体制派メディアのみならず、進歩的言論機関の「ハンギョレ」が「朝鮮派兵説」を流している状況は、アメリカにとっては、情況の水位を把握する一つの材料である。もちろん、このことは「戒厳令」を阻止した韓国民衆の行動を矮小化するものではない。しかし、そうしなければ戦争になってしまうという、朝鮮半島南北が置かれた構造的な脆弱性があり、その脆弱性を維持し、それを利用して自国の影響力を拡大しようとしているのが、他ならぬ日米なのだと言う事実を閑却した「民主主義」礼賛は些か無責任ではないか。それが証拠に、日本メディアは、西側メディアと歩調を合わせて、「朝鮮派兵説」を既成事実として扱い、「ロシアと北朝鮮の軍事的な協力が深まり続ければ、朝鮮半島情勢にも影響を及ぼす可能性」(『朝日新聞』10月22日)、「参戦が確認された場合、国際情勢への影響は大きい。ロシアとウクライナの対立軸が東アジアにも持ち込まれかねない」(『毎日新聞』10月30日)などと事態を煽ってきた。いわゆるリベラル反戦派も、この点たいして変わらない

朝ロの包括的戦略パートナーシップ条約は2024年12月5日発効したが、「そのようなことがあれば、それは国際法の規範に合致する行動だと考える」(朝鮮外務省キム・ジョンギュ次官、10月25日)の言葉通りに、今後は、他ならぬ相互運用性の強化を目指した様々な訓練や交流が行われる可能性が高い。「朝鮮派兵説」が浮上してから「戒厳令事態」に至るまでのタイミングを見ると、米韓は、そのことを見据えて、先手を打って攻撃を仕かけようとした可能性さえ否定できない。