新たなフロンティアの開拓-マレーシア・ロシア関係の未来 (アンワル・イブラヒムマレーシア首相による東方経済フォーラムにおけるスピーチ
ダトー・セリ・アンワル・イブラヒム
マレーシア首相
2024年9月5日(木)、
2024年東方経済フォーラムにて
極東連邦大学
アセンブリーホール
ロシア、ウラジオストク、ルスキー島
賓客の皆様、ご列席の皆様
- 何よりもまず、私を招待してくださったウラジーミル・プーチン大統領に感謝の意を表したいと思います。
- また、個人的な面でも、このフォーラムは私にとって記念すべきものです、信じられないかもしれませんが、これは私にとって 初めてのロシア訪問なのです。50年以上前、私がまだ 「現役 」のユース・リーダーだった頃、アエロフロート・ロシア航空に乗 り、ベルギーのリエージュに向かう途中モスクワを経由しました。私たちはトランジットのホテルまでしか行くことができませ んでした。だから、私はロシアの地を踏む機会はなかったのです!
- 従って、歴史と進歩がシームレスに融合した、ロシアの広大さとアジア太平洋の無限の可能性が出会う場所であるウラジオスト クにようやく来れたことは、二重の名誉であり、特権でもあります。商業の交差点として、この街は、ロシアと東アジアの豊か な伝統を反映し、多様な影響を受けて形成されてきました。ウラジオストクは文化の交差点です。
- ウラジオストクは、その経済的な重要性だけでなく、ロシアの歴史において、重要な海港として、また伝説的なシベリア横断鉄 道の東の終着駅として重要な役割を担ってきました。この街はまさにロシアと東洋のつながりを体現しています。
- ここに、地理、アイデア、願望、そして未来が交錯する、私たちの集いの力強いシンボルがあります。2015年の創設以来、東方 経済フォーラムには、世界中から先見性のあるリーダーたちが集ってきました。このことは、活気に満ちた経済ダイナミズムと 計り知れない可能性を秘めた地域である、極東ロシアを含む北東アジアに相応しいものです。
- 実際、北東アジアは世界のGDPの約5分の1を占めています。私は、プーチン大統領のビジョンとリーダーシップに感謝し、有意 義な対話と協力の促進を継続していきたいと思います。
- ロシアは戦略的、経済的に注目されるだけの存在ではなく、文化的、知的、科学的な力として、グローバルな舞台で突出してい ます。商業や地政学の枠を超えて、人類の歴史と思想に深く浸透しています。
- ロシアの卓越性は、軍事力や経済力ーそれらは重要ではありますがーに由来するのではなく、思想の不朽の力、芸術的表現の美 しさ、そして揺るぎない知識の追求に由来しています。
- これらの実績は、ロシアの卓越したソフトパワーの基盤となっています。ロシアは世界的な尊敬と称賛を集め、人々の心に影響 を与えています。
- 私個人としては、この影響力は文学において最も強く感じられます。初等教育時に英語とマレー文学の源泉を深く味わい、その 後ダンテ、シェークスピア、ミルトンの作品に親しんできた私は、文学なくしては、人生はずっと貧弱なものになると深く信じ ており、このことを強い信念を持って主張いたします。
- この点で、私は、比類ない洞察力で人生の奥深い複雑さを探求し たロシアの偉大な作家や詩人たちを賞賛してもしきれません。 彼らの作品は、私自身の社会と人間に対する理解に永続的な影響を与えました。
- 例えば、フョードル・ドストエフスキーやレオ・トルストイの作品は、そのほんの数例です。彼らの作品は、人間であることの 意味を定義する道徳的、哲学的なジレンマに踏み込んでいます。
- ドストエフスキーは、信仰と懐疑と人間の魂の複雑な問題に関わることを私たちにいざないます。トルストイは、権力、責任、 時間の移ろいの本質について考えるよう私たちを誘います。ロシア文学の鑑賞は、文学的な意義を越えて、この偉大な国が 世界の思想に与えた影響の深さを示すとともに、より広範な歴史の流れの中での私たち自身の役割を理解するための情報を与え てくれるのです。
- さらに、ロシア文学の魅力と力は、その哲学的な意義にとどまりません。チェーホフ、プーシキン、パステルナーク、ソルジェ ニーツィンといった作家たちは、日常生活の喜び、悲しみ、葛藤をリアルに表現しており、そのリアリズムは私の心に深く響い たのです。
- 例えば、収監されていた期間、私はときどき、労働キャンプで10年の禁固刑を言い渡された『イワン・デニーソビッチの一日』 のページを時々読み返していました。まあ、私は強制収容所で服役したわけではないとは言え、 10年間の独房生活は、決してバ ラの花壇ではありませんでした。
- 科学技術を通じて人類の知識を発展させる上で、ロシアは極めて重要な役割を担ってきました。宇宙探査における先駆的な取り 組みから、核物理学やサイバネティクスにおける画期的な研究まで、ロシアは常に可能性の限界を押し広げてきました。
- これらの貢献は、自然界を理解し極めることへの根強いコミットメントを反映し、人類全体の進歩におけるロシアの重要性を裏 付けています。
- 私たちは、世界経済を分断しかねない保護主義の憂慮すべき傾向を目の当たりにしています。世界経済を分断する恐れがある 、 関税、貿易障壁、技術交流の制限は憂慮すべき動きです。
- これらの措置は、国内産業や知的財産を保護する必要性によって正当化されることもありますが、保護主義の壁には限界があり ます。グローバル化の恩恵は、その欠点にもかかわらず、多大なものであり、何百万人もの人々を貧困から救い、前例のない経 済成長をもたらしました。
- この点で、グローバル・サウスの台頭は、単に経済力のシフトを意味するのではなく、グローバルな影響力の再構成を意味する のです。アジア、アフリカ、ラテンアメリカにまたがる国々を包含する「南半球」は、世界経済の未来を再構築する上で極めて 重要な役割を果たす軌道にあります。
- 最近の推計によれば、グローバル・サウスは現在、世界の経済生産の約40%を占め、世界人口の約85%が居住しています。2030 年までには、4大経済大国のうちの3カ国がグルーバル・サウスの国々になると予測されています。
- この台頭は、課題と機会の両方をもたらす現実でもあります。マレーシアにとって、成長を分かち合い、よりバランスの取れた 世界秩序に貢献するためには、強い絆を築くことが不可欠です。ロシアと同様、我々はこれらの発展途上国に可能性を見出して おり、相互繁栄を促進できるパートナーシップを育むことにコミットしています。
- この流れの中で、マレーシアは、グローバル・サウスにおける機会を積極的に追求し、より包括的で、より公平で、より持続可 能で、より強靭な開発の新しいパラダイムを求める国々と力を合わせています。
- 複雑さを増す世界において、私たちの将来の繁栄は、適応し、革新し、伝統的な境界を越えた関係を築く能力にかかっていま す。グローバル・サウスは台頭しており、マレーシアはそれとともに台頭するつもりです。
- 開放経済国であるマレーシアは、全世界とビジネスを行うことに誇りを持っています。マレーシアは、グローバル化したサプラ イ・チェーンの重要な結節点であることから、大きな恩恵を受けているのです。
- この努力の中心となっているのが、わが国にとってより持続可能で包括的な未来の道を切り拓くための構造改革イニシアティブ を実施してきたMADANI経済の枠組みです。
- マレーシアとロシアの二国間関係において、協力の余地がある分野のひとつにイスラム金融があります。マレーシアは、この分 野において、シャーリア原則を遵守するだけでなく、金融イノベーションを推進する活発な組織的環境を有する世界的な リーダーです。
- イスラム教徒人口が多いロシアは、イスラム金融の大きな可能性の入り口に立っています。ロシアは、イスラム金融の導入によ り、共同プロジェクトを推進し、イスラム教徒が多数を占める国々から大きな投資を呼び込むことができると確信しています。
- 農業分野では、ロシアは目覚ましい発展を遂げ、この分野で重要なグローバル・プレーヤーとなりました。世界最大の穀物生 産・輸出国として、世界の食糧安全保障に重要な役割を果たしています。 ロシアの農産物輸出は、サプライ・チェーンの混乱が 続くなか、世界市場の安定化に役立っています。
- 教育・研究に目を向けると、ロシアは、特にSTEM(科学、技術、工学、数学)分野において、その卓越性により長年高い評価を 受けてきました。ロシアの大学は常に世界のトップクラスにランクされ、世界トップランクの科学者、エンジニア、研究者を輩 出しています
- 最近マレーシアに設立されたロシア・マレーシア・ハイテク・センター(RMHTC)は、技術革新と技術開発を促進するという 我々のコミットメントを強調するものです。
- ハイテク・ソリューションの開発、特にエネルギー効率、データ伝送、スマートシティ技術におけるイノベーションの推進にお いて、私たちは相互の強みを結集することにより、イノベーションを推進し、21世紀の課題に取り組むことができます。
- さらに、AIや半導体技術のような最先端の進歩への努力は、人間的で利他的な価値観によって導かれるべきです。技術競争と不 公平が自由貿易の妨げとなり、地政学的景観が分断される結果とならないようにするためです。
- マレーシアは、ASEANの次期議長国として、既存のASEANメカニズムや制度を強化するだけでなく、他の地域や主要な対話パー トナーとの相乗効果を見出し、開発と繁栄を促進します。
- このアプローチを推し進める上で、最も優先されるのは以下のことです。メンバー国の有機的な結束軸であるASEANの中心性 という最重要原則を強化することです。
- マレーシアはまた、他の諸地域との関与を強化し、ロシアを含む、戦略的パートナーとの関係を活用していきます。この文脈に おいて、ASEAN-ロシアパートナーシップは、経済成長、安全保障協力、文化交流を促進する上で極めて重要です。
- これを踏まえ、マレーシアはBRICSへの加盟申請にあたり、以下を目指します。経済外交努力を多様化し、共有イニシアティブ と戦略的パートナーシップを通じて、加盟国との協力を強化することを目指します。
- この場をお借りして、プーチン大統領のご招待に深く感謝申し上げます。10月にカザンで開催されるBRICS首脳会議に私を招待 してくださったプーチン大統領に深甚なる謝意を表します。このご招待は、BRICSへの加盟という最終目標に向けた大きな一歩 となります。
- 私たちは、気候変動という深刻化する存亡の危機に直面して、熾烈な超大国間の競争、世界経済の大激変、そして権力基盤を強 化する「道具」としての貿易と技術に特徴づけられる時代を迎えている。
- 我々は共に協力し、声を合わせて、アジアと世界のさらなる平和と繁栄の未来を築くために、戦略的且つ政策的な意見交換を行 うべきです。
- 我々が共に進むべき道を描くにあたり、我々のパートナーシップの真の強さは、我々が署名した協定や、我々が共同で実施する プロジェクトのみならず、私たちを結びつける共通のビジョンと相互尊重にあることを忘れてはなりません。
ありがとうございました。