萩原浩 著
集英社文庫
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6つ短編から成る「家族の物語」短編集。
本屋でぶらぶら見ていて、タイトルになんとなく惹かれて買ってしまった。
「○○の見える」という地形的なイメージが湧くものに、なんとなく気持ちが引っ掛かる。
「理髪店」というノスタルジックな言葉にも、やっぱり引っ掛かる。
その二つを組み合わせた言葉に、まんまとしてやられてしまった…
というより
「引っ掛かかってみた」
というのが正しいかもしれない。
で、肝心の中身は?というと…
あながち「引っ掛かかってみた」のは悪くなかった。
著者の萩原さんは1956年生まれだそうで
私よりは歳上だけど、過ごしてきた時代はほぼ同じようなものだからなのか
小説の背景がかなり「スルッ」と入って来る。
多分50代以上の人には、各短編の空気感みたいのにリアル感を持てるのではないかと思う。
昭和の(高度成長期あたりからあったであろう)
平和感、ささやかな幸福感
(その裏には辛さがある)
無力感、二層感?、焦燥感、、
そんなものを私はきっと感じていたような気がする。
そんな言葉は、今となっては言語化できるが、「自分」のベースを形づくる10代20代では全くわからなかった。
ずっと何かがモヤモヤしていた。
ずっと何かに違和感があった。
ずっと何か心の底に苛立ちがあった。
気がする。
それは、「自分自身に」であり
「親に」であったかもしれない。
いや、「親に」というのは実はそれも違う。
「親」というフィルターを通して「自分」を見ていたから…
親達の「昭和」と自分達の「昭和」にズレがあったのだと思う。
それが「二層感」。
『海の見える理髪店』の各短編は
「家族の物語」と解説されている。
読み進めると、なんだか心に痛みを感じる。
もしかすると「二層の昭和」を萩原さんも感じていたのか?
各短編の登場人物には、何かしら辛い過去やキズを持っている。
それらがなぜか、リアルに感じてしまう。
最後には、なんとなく前向きな展開?が起こりそうな雰囲気を残して終わる。
なんとなく救われる。
少し、何かにあらがってみよう。
と思った。