八戸の煎餅の挽歌のつもり

昔の新聞のスクラップブックを取り出して感想を書いたり書かなかったり。

煎餅につける胡麻

2019-12-06 | 日記

   八戸の駅        村次郎
  
 故郷の門、八戸の駅よ。おまへはいつものやうだ。
その広場では、またいつものやうに早春の淡い日向で胡
麻を干してゐる。懐しい故郷の名物の煎餅につける胡麻
を干してゐる。
 はるか海の方、アルミナ工場や、近くのアルコー
ル工場の建築工場の見える八戸の駅よ。東京ではよく
高いビルデイング街の空を私の泪のやうな鳩たちが飛ん
でゐた。
 ああ、そしてそれに疲れて私は帰ってきたのだった。
だが故郷は、またなんと多くの烏たちであらう。工場の
上に舞ひ上がる烏たちであらう。私の郷愁が、思考がい
つも黒い小さな点になって飛び散るやうに。
 黒い烏たちよ。私には想はれてならない――胡麻は
おまへたちの泪だったのだと。
 ああ、だがこの私の不覚の泪は、なに。
(村次郎詩集刊行委員会編「忘魚の歌」24ページ、昭和60年4月、村次郎詩集刊行委員会=原本、)


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