八戸の駅 村次郎
故郷の門、八戸の駅よ。おまへはいつものやうだ。
その広場では、またいつものやうに早春の淡い日向で胡
麻を干してゐる。懐しい故郷の名物の煎餅につける胡麻
を干してゐる。
はるか海の方、アルミナ工場や、近くのアルコー
ル工場の建築工場の見える八戸の駅よ。東京ではよく
高いビルデイング街の空を私の泪のやうな鳩たちが飛ん
でゐた。
ああ、そしてそれに疲れて私は帰ってきたのだった。
だが故郷は、またなんと多くの烏たちであらう。工場の
上に舞ひ上がる烏たちであらう。私の郷愁が、思考がい
つも黒い小さな点になって飛び散るやうに。
黒い烏たちよ。私には想はれてならない――胡麻は
おまへたちの泪だったのだと。
ああ、だがこの私の不覚の泪は、なに。
(村次郎詩集刊行委員会編「忘魚の歌」24ページ、昭和60年4月、村次郎詩集刊行委員会=原本、)