いぬくそ看板の向こう側

いぬくそ看板の背景に存在する「人間ドラマ」を紹介するブログです。

いつかは乗りたい高級セダン

2020-08-27 20:30:00 | 背景はクルマ
いぬくそ看板とは、ドラマである。

いぬくそ看板観察を長く続けていると、そこに繰り広げられるドラマを勝手に見出してしまう。それは私の妄想で、たぶん実際とは違うと思う。でも、これだけ「怒り」を公にされてしまうと、何かを思わざるを得ない。

その「思わざるを得ない」ものを自分の中に留めておくのは辛いものがある。人の怒りを受け流すほどのヒューマンスキルは持ち合わせていない。だからその妄想を物語にして自分の心から成仏させようと思う。


多奈崎いぬくそ事案 ケース1:康夫の場合

「やはり片付けていない」
康夫は今朝もひとりごちた。

田畑がまだ残る住宅街。朝のさわやかな空気に相応しくない茶色いペースト -いぬくそ- が、車庫の前に落ちていた。これで何度目だろう。飼い主が持って帰れば済む事なのに、なぜ自分の手を汚さなければならないのか。康夫は納得しない気持ちを押し殺して糞を片付けた。

※写真はイメージです

いぬくそを片付けなければ、クルマを車庫から出した際に踏んでしまう。踏んだ糞はタイヤハウスに飛び散りひどい臭いを放つ。

康夫の愛車は国産トップメーカーの高級セダンで、最新式のひとつ前のものだ。5年前、長く勤めた職場の定年を記念して購入したものである。その前も同じブランドのクルマだったが、リニューアル前だった。エンジンが高級車然とした直列6気筒からコンパクトに収められるV型6気筒になったが、乗り味にこだわらない康夫にとっては問題ではなかった。


代々受け継いだ赤津町の農地を好景気の時代に宅地化した。そのおかげで、地方公務員としての給料の他に不動産の副収入があった。自分の身分より良い家、良いクルマ、良い生活を享受していると康夫は思っている。いぬくそはそのバチが当たったのだろうか。

多奈崎市役所に相談したところ、担当の部署から「動物のフンの片付けを啓蒙する看板」がもらえる事がわかった。取り寄せたところ、ファンシーな絵柄でメッセージもそれほどきつくない。飼い主の反感を買うことは無さそうだ。とりあえず、ガレージの前に設置しておこう。康夫は看板を門扉に括り付けるための針金をおもむろに探し始めるのであった。

(おわり)
※多奈崎市を舞台にするにあたり、空想地図タナザキテさんからご指導いただいております。