6日発表の8月米雇用統計を前に、多くの市場参加者にとって想定外の日米株価の大幅下落が起きた。まるで8月5日の「暴落」の再現ではないかと身構えた市場参加者も多かったはずだ。株価下落のトリガーを引いたのは、米司法省が半導体大手エヌビディアに対する反トラスト法(独占禁止法)違反の調査を本格化させたというブルームバーグバーグの報道だ。
だが、3日のNY市場では、米株だけでなく原油や銅、金、ビットコインなどの暗号資産など幅広い投資対象から資金が流出。リスクオフ心理が刺激されたまま4日の東京市場でも日経平均株価が一時、前日比1800円を超える下落となり終値でかろうじて3万7000円台を維持した。不安心理が醸成されたまま迎える6日の8月米雇用統計は、今年末に向けた世界のマネー動向を決定づける重大な経済データになったと言える。
もし、6日に向けて不安心理が高まったままなら、弱い雇用統計の結果で米連邦準備理事会(FRB)の大幅利下げを期待して株価が反発するのではなく、米経済失速を懸念した一段の急落を招くかもしれない。世界の市場は米雇用統計の発表まで「緊迫の3日間」を迎えることになる。
<弱いISМ、米株下落の本当の理由なのか>
市場で注目されていた3日発表の米供給管理協会(ISM)による8月製造業景気指数は、8カ月ぶり低水準となった7月の46.8から47.2に上昇したものの、新規受注の減少や在庫増のデータを受けて、製造業の低迷が続くとの見方が市場で浮上した。
ただ、この数字だけでダウが625ドル超も下げ、ナスダックが3.26%も急落するというのは多くの市場参加者にとって、想定外だったと思われる。
というのも、米国産標準油種WTIが4.36%下落したほか、銅や金、ビットコインなど幅広い投資対象の価格が下落し、資金が流入したのは米国債だけというかなり偏った資金フローとなり、ISMのデータはそこまでのパニック心理を発生させる内容ではなかったからだ。
<バフェット氏が米株売り・米債買いか、エヌビディアへの反トラスト法調査報道も>
複数の市場関係者によると、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米バークシャー・ハザウェイは3日のNY市場で米株式を売却し、5年米国債など中期ゾーンの債券をまとまった規模で買っていたという。
3日のNY市場で目立ったのはエヌビディア株の下落で、9%超の下げ幅を記録。フィラデルフィア半導体(SOX)指数は7.8%安の4759ポイントまで急落し、市場の一部では「AIバブルの崩壊」との声が上がったという。
だが、複数の市場関係者によると、3日のNY市場の引け後に市場心理を大きく弱気化させたのはブルームバーグによる米司法省が半導体大手エヌビディアに対する反トラスト法違反調査を本格化というニュースだったという。
<米系ファンドが日本株売り・円買い、蘇る8月5日の急落の記憶>
4日の東京市場では、日経平均株価が前日比4.24%下落して3万7047円61銭で取引を終えた。米株の下落幅を上回る大幅な下げは、米株下落時の日本株の脆弱さを改めて印象付けた。その背景には、ドル/円がドル安・円高に振れると日経平均株価の下げ幅が増幅されるという構造問題がある。日経平均株価に占める輸出型企業の割合が多いということが、こうした局面での下げ幅を大きくしてしまう。
複数の市場関係者によると、4日の東京市場では複数の米系ファンドとみられる参加者から日本株売り/円買いのまとまった注文が出ていたという。ハイテク株など米株下落の穴を埋めるため、ドルベースでみて利益のある日本株を益出し売りし、日本株買い・円売りというポジションを巻き戻した結果、円高も進んでそれを見て国内勢が日本株の売りを加速させた面もあったという。
この日の日経平均の下げ幅である1638円70銭の下げ幅は、8月5日の4451円28銭という過去最大の下落の3分の1強にとどまったが、8月5日の「暴落」という風景を多くの市場参加者に思い出させるには十分だったと思われる。
したがって国内勢の日本株買いへのスタンスは、しばらく慎重さが優先され、戻り売りの参加者が増えると予想される。
<3日NY市場から急変した市場心理>
しかし、問題の本質は日本株の上値が短期的に重くなったことではなく、米経済の先行きに対してグローバルな市場参加者が疑念を持ち始めたことだと指摘したい。
当初、市場参加者の多くは8月米雇用統計が前月の反動で非農業部門の雇用者増が16万人ー20万人と増え、失業率が4.1%に低下するなら9月の米連邦公開市場委員会(FOМC)における50ベーシスポイント(bp)の利下げの可能性が後退し、米株は下落する可能性が高いと予想していた。
ただ、その場合でも大幅下落は回避できるとの見方が大勢だったと思われる。なぜなら、米経済はソフトランディングするとの期待感が強かったからだ。
ところが、3日のNY市場での値動きを経て、米経済失速への懸念が再び台頭しつつあるのではないか。今回は、8月上旬の急落時に顕在化していなかった「AIバブル崩壊」という懸念も新たに加わり、市場心理がより悪化方向に振れやすくなっている面も見逃せない。
<注目される4-5日のNY市場>
その意味で、まず、6日の8月米雇用統計の発表を前にした4、5日のNY市場でリスクオフ心理が増幅されるのか、それともいったんは沈静化するのかが大きなポイントになる。もし、NY市場でエヌビディア株の下落に歯止めがかからなかったり、SOX指数が一段と低下した場合には、米雇用統計後の米株の一段安を意識した「緊張感」が高まるだろう。そのケースでの日経平均株価への下押し圧力は増大すると予想する。
逆にいったん半導体関連株が買い戻され、米株やリスク資産にマネーが流入するなら、市場は今よりも余裕をもって雇用統計を待ち受ける態勢が整うことになる。
<弱い雇用統計なら、リスクオフ心理を増幅か>
8月米雇用統計の結果を正確に予測することは不可能だが、今の市場心理から勘案すると、7月よりも雇用情勢が好転していることを示す結果が出た場合、株価などのリスク資産は素直に買い戻されるのではないか。
他方、弱いデータが出た場合には、リスクオフ心理が刺激され、日米株価は下値模索になりかねないだろう。
そのことは、市場が米連邦準備理事会(FRB)による利下げ対応に対し「後手に回っている」との警鐘を鳴らすことを意味する。
いずれにしても今夜からの3日間は「緊迫感」がいつになく増すことになる。
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