一歩先の経済展望

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株下落の記憶蘇らせるISМと雇用統計、今回は平穏か ドル/円はやや円安に

2024-09-03 14:10:08 | 経済

 8月上旬に起きた日米株価の大幅下落は、日米金融政策イベント後に発表された7月の米供給管理協会(ISM)製造業景気指数と米雇用統計の弱い結果がトリガーを引いた。それから1カ月が経過し、3日にISМ、6日に米雇用統計が発表される。

 市場の注目度は当然高まっているが「株価暴落」の再燃を懸念する声は少ない。米景気失速の見方が1カ月前から大幅に後退しているためだが、年内3回の米連邦公開市場委員会(FOМC)で合計100ベーシスポイント(bp)の利下げがあるとの市場の期待に水をかけるほどの強いデータが出れば、米株価は調整するという見方も少なくない。結果としてドル/円は140円台半ばから150円のレンジ内で推移するとの声があり、筆者もその見方に同意する。

 

 <日米株価の大幅下落に結びついた7月のISМと雇用統計>

 市場にショックを与えた7月ISМ製造業景況指数は、昨年11月以来8カ月ぶりの低水準となる46.8に低下し、拡大・縮小の分岐点となる50を4カ月連続で下回った。

 さらに7月の米雇用統計では、失業率が2021年9月以来、約3年ぶりの高水準の4.3%に上昇。非農業部門雇用者数は前月比11万4000人増と市場予想を下回り、平均賃金の前年比伸び率が約3年ぶりの低水準となったことで、労働市場の悪化や景気後退への懸念が一気に高まった。

 <今回は前回比改善か>

 市場では、日本時間の3日夜に公表される8月ISМ製造業景況指数が7月から改善するとの見方が多く、前回のように米景気失速懸念が台頭し、米株価下落/米長期金利低下/ドル安・円高が進むという予想はごく限られた声となっている。

 ただ、市場予想よりも大幅に強い結果となった場合は、年内3回のFOМCで合計100bpの利下げという見方が後退し、8月上旬の株価下落から復調してきている米株価に調整の動きが出るとみられている。

 米雇用統計に関しても、前回7月のデータはハリケーンの影響が含まれて下方にぶれた可能性があり、今回は非農業部門雇用者数の前月比が回復し、失業率は少なくても4.4%方向に悪化することはないとの予想が多い。 

 

 <株価小幅調整のケースも、景気失速懸念は後退>

 ここでも強めのデータが出た場合は、年内100bpの利下げ期待に逆風となり、米株軟調へとつながる可能性があるだろう。

 同時に8月上旬と異なって米景気失速への懸念が大幅に後退している中では、米株調整の幅も限定的になりそうだ。米景気後退への懸念が弱まっている根拠として、米アトランタ地区連銀の算出している「GDP NOW」の強さがある。2024年7-9月期の国内総生産(GDP)伸び率は2.5%となっており、景気後退とは「別の風景」を映し出している。

 このように見てくると、米株価は2つの指標発表後に調整があるかもしれないが、その幅は限定的になる可能性が高いのではないか。

 

 <ドル/円、140円半ばー150円のレンジか>

 一方、東京市場関係者が注目しているドル/円は、2つの指標で強めのデータが発表された場合、米長期金利の上昇を材料にドル高・円安方向にシフトすると筆者は予想する。

 だが、米連邦準備理事会(FRB)の利下げが今年9月にスタートし、来年に向けて100bp超の利下げが予想される中、ドル/円で150円を大幅に上回るドル高・円安の可能性はかなり低下したと言えるだろう。結果として年内は140円前半から150円のレンジを形成すると予想する。

 

 <日銀、利上げ検討再始動の環境へ 注目される高田審議委員の発言>

 日米株価が8月上旬の大幅下落から回復する中で、日銀の利上げ再始動に向けた環境は徐々に整いつつあると筆者は考える。

 というのも、米ソフトランディングの可能性が高まるほど輸出系企業を中心にした日本企業の業績の先行きに明るさを見出すことが可能になるからだ。財務省が2日に発表した2024年4-6月期法人企業統計によると、全産業の経常利益は前年同期比プラス13.2%の35兆7680億円と四半期ベースでは過去最高を記録。設備投資も同7.4%の11兆9161億円と堅調だった。

 足元までの好調な業績と先行きの米経済のソフトランディング期待の高まりは、日銀の金融政策の自由度を高めることになるだろう。大幅な実質の政策金利のマイナス水準を調整せずに放置すれば、円安圧力を高める事態に直面するかもしれず、緩和度合いの調整を目指す利上げ検討がいずれ本格化すると予想する。

 日銀の高田創審議委員が5日に金沢市で講演と会見を予定しているが、足元の状況を踏まえてどのような情勢判断を示すのかBOJウォッチャーの注目を集めるだろう。

 こうした点を踏まえると、3日と6日の米経済指標の結果とその後の市場動向は、日銀の金融政策の行方を判断する上でも注視が必要だ。


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