ミケマル的 本の虫な日々

『出星前夜』

 
  『出星前夜』 飯嶋和一

 以前に、飯嶋氏の『黄金旅風』を読んで、とてもよかったので、次が出たら買おうと思っていたのですが、ぜんぜん見つからなかったので、あきらめ気味になっていたら、この本をこの前見つけました。私は知らなかったのですが飯嶋氏は、とても寡作で有名で、4年ぶりの新刊だそうです。

 『黄金旅風』は、江戸時代初期の長崎を舞台にした小説です。本屋さんで、この本を見て、装丁がとても綺麗なので買ってしまったようなものなのですが、これまで読んだ時代小説とは違った趣で、あたりの本でした。
幕府が江戸時代の支配体制を作る過渡期に、キリシタン禁止や貿易の制限による鎖国などによる、長崎が混乱している時期に、支配者に対する市井の人々の物語を描いています。

 『出星前夜』は、『黄金旅風』の話の数年後の島原、長崎の話です。共通の登場人物も出てきますが、独立した物語です。この2冊に共通しているのは、主人公が一人ではないということです。一応、主な主人公は居るのですが、それ以外の登場人物たちも、自分の人生を一人称で語るのです。このような描き方だと、統一感が無くなりがちだと思うのですが、読み終わった後に、それぞれの人物がそれぞれ立っているように思われます。これは、この著者の力量だと思います。

 『出星前夜』は、いわゆる「天草四郎の乱」として知られている、キリシタンの蜂起を軸に描かれているのですが、今までの認識とまるで違った見方で描かれているので、その内容だけでも面白いのです。そして、それ以上に、ここに出てくる一人一人の主人公の人生が、潔く、哀しく、感動的です。その描き方が淡々としているので、それが際立って思えるのだとも思いますが。

 最近、この本の書評がよく出ていて、このころの時代背景(強欲で無能な治世者と、貧困と圧制に苦しむ農民という)を現代に当てはめているような書き方が多いのですが、それは短絡的すぎるのではないかと、私は思います。
 私は、この中でキリシタンの信仰の描き方や、江戸初期の農民のあり方がとても新鮮でした。また、主人公の一人である漢方と西洋医学の両方を知る医師が語る、漢方の考え方が、とても興味深かったです。

 とにかく、面白くて、感動できるので、「一度読んでみてください」と言いたい本です。

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コメント一覧

YUKI
やっと読み終えた
端的に言って,いい本です.普段本を読まない方にはお勧めです.読み易い本で3か月くらいかけて読みましたが(家内には怒られたり,感心されたり),一行読み進めるとこれまでのストーリーが蘇るところは作者の技量と思います.歴史小説を読むと作者はこの人物に会ったのか...と思うような人物描写が出てきます.「篤姫」もそうですけど...さて,天草四郎はどんな人物だったのか???
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