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こんにちわ。中川かすみです。前回紹介した、キムが僧侶に何度もレイプされた事件の続きです。家族には「寺を訪問する」と言ってキムは自宅を出て、その後行方不明になりました。夜になってもキムが帰宅しないのを心配した両親は、知り合いの警察や権力筋など可能な限りのネットワークを使って娘を探そうとしました。
捜査の結果、失踪した日の翌朝、キムはポイペト(タイとカンボジアの国境)の安宿で僧侶とともに発見されました。たった一夜で行方不明者を探し出した迅速な警察の捜索能力は驚きです。犯人が捕まらないのは警察の能力が低いということはよくいわれますが、それだけではなく、警察に捜査する気がないからなのだという事実をこの一件が暗に証明していると思います。僧侶は人身売買未遂の容疑で逮捕され、キムは保護されました。ところが、ここからキムの新たに悲惨な生活が始まります。
キムはレイプされたと主張したのですが、僧侶側の弁護士が準備した弁護内容には、キムは合意の上で僧侶と性的関係を持っており、さらに具体的な二人の性的行為が数ページにわたって詳細に書かれていました。キムが僧侶といっしょにタイに遊びに行くために家出したのだという記述もありました。キムの両親は、特に性的行為の部分を読んでショックを受け、娘がふしだらだと激怒しました。キムのような娘は家にいてもらっては困ると言ってキムを親戚の家に預け、親戚には娘を罰して再教育するため家に軟禁するように依頼しました。たとえレイプされたとしても、結婚前に性的関係を持ってしまったこと、さらに両親には受け入れられない娘の性的行為が(レイプであったとしても)弁護士など他人に知られてしまったことで、キムは制裁を受けることになったのです。いずれにせよ、裁判の準備が始まると、キムの家族は被告人の家族や友人から脅迫を受け始め、安全上の理由でキムは親戚の家から出ることは不可能になってしまいました。
裁判が近づいたある日、キムの弁護士が裁判所から呼び出しを受けました。弁護士とキムの親族は裁判所の職員から、「被告人側は勝訴するために1万3000ドル(150万円くらい)支払っているから、もし裁判に勝ちたかったらそれ以上必要だ」と単刀直入に言われました。裁判の前から判決内容が決まっていて、結果を自分に有利に変えるためには賄賂を払わなければならないという事実が本当なのだと、私は初めて実感しました。キムの家族は中流家庭とはいえ、そんな大金を支払う余裕はありません。公務員の月給が3000円程度の国なのです。
キムの親族の中に、司法分野で多少権力を持っている政府高官メイがいたため、両親はメイにこの事件を仲介してもらえないかと相談しました。ところがメイは、「身内の者がそんなふしだらなことをしたと分かったら、自分自身が恥をかくから一切かかわりたくない。自分の名前は一切出さないでほしい。」との回答です。でも結果的には、政治家メイの親族が「スキャンダラスな」裁判にかかわっていることが司法関係者に知られることになってしまいました。カンボジアは「パイナップルの耳」ということわざがある程、噂がすぐに広まる社会です。キムのせいで自分の名誉が傷ついたと、キムの家族はメイから繰り返し愚痴を聞かされることになってしまいました。被害にあっただけでなく、本来なら味方につくはずの両親にも親族にも非難されて、当時のキムはとてもつらそうでした。
つづく
写真は本文といっさい関係ありません。
少女たちをエンパワーして性暴力から守るために
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