空中楼閣―Talking Dream―

好きなものを徒然なるままに。

こっそりと。

2011-05-02 13:06:23 | フィギュアスケート
今更、こっそりと書き残しておく。個人的な回顧です。


東日本大震災があり、大きな被害が次々に明らかになり、
東京で開催されるはずだった世界選手権の延期が決まり。

正直、「フィギュアスケート」の話なんかしていていいんだろうか、
みたいな状況下で、こっそり望んでいたことがあった。

世界選手権が無事に開催されたら、安藤選手に優勝してほしい。
(これは、私が安藤ファンだから。他意はない。)
そして、エキシビションで、「レクイエム」を演じてほしい。


とてつもなく重苦しい気分だったとき、
私は2009年末の「メダリスト・オン・アイス」の録画を引っ張り出した。
安藤美姫の「レクイエム」を見たかったのだ。
黒い衣装で演じる、怖いくらい迫力のある演技、という印象だったんだけれども、
そのとき改めて見返すと、心が浄化されていく気分を味わった。

この「レクイエム」という作品、2009-2010シーズンで、ショートプログラムでも使われていたんだけど、
オリンピックを境に、解釈が少し変わった気がしていた。
グランプリファイナルを筆頭に、オリンピックまでは「怖い」作品。
地の底から死者たちの魂を呼び起こすような、圧倒的な「念」の力と迫力。
それが、オリンピックの安藤選手は、意外なほどやさしい表情で「レクイエム」を演じていた。
それは死者を慰め、天に導いていく祈りの作品になっていた。
「アヴェ・マリアみたい」という感想もどこかで読んだかな。
一方、エキシビションは最後まで「怖い」ままで、…正直、私は怖いほうが好みだった(笑)


そして、モスクワに場所を移して開催された世界選手権。
安藤美姫は、優勝した。

それだけで、十分だった。
エキシビションの前に、私は、自分が「レクイエムを見たい」と願っていたことを思い出した。
でも、期待はしていなかった。
というか、せっかく優勝者としてのエキシビションが見られるのに、
自分の勝手な願いが叶えられないことによって失望なんてしたくなかった。
あらゆる可能性を考えて、どれに対してもわくわくしていた。
・白衣装のエキシビションが、今季からの新境地(しっとり優雅)なので見たいな。
・「アランフェス」は、あまりテレビで見る機会がないから見たいな。
・もう一種類のショー作品は、更に見る機会が少なかったから見たいな。
・世界選手権が伸びたことで新作ができていたりしたら最高だな。
…まあ結局は、「何を見られてもうれしい」ってことです(笑)だってファンだもの。

エキシビションの安藤美姫は、白い衣装を着ていた。
新調された、ものすごく美しい衣装。
しっとり優雅に演じ上げ、拍手の中で感極まって涙を流す彼女を見て、それで満足だった。

しかし、それで終わりではなかった。
優勝者なので、アンコールがあったのだ。
通常、アンコールには、競技プログラムの一部(ステップ部分とか)を演じる選手が多い。
ショートプログラムの「Mission」は、エキシと印象が重なる作品だから、フリーかな。
そう思いながら見ていると。

安藤選手は、リンクに横たわったのだ。
そこにスポットライトが当たる。

テレビを見ながら、自分の鼓動が速くなるのを感じた。

「レクイエム」だ!!

純白の衣装で演じられる、「レクイエム」。

今、ここでこの曲が演じられることの意味を、全員がわかっている。
誰に捧げられる鎮魂歌なのか。

ゆっくり、十字が切られる。
ステップの一歩一歩が、祈りのようで。
最後のスピンで、全てが清められ、天に昇っていくようで。

信じられなかった。

私の勝手な願いだった。
ただの願望だった。

それが全て叶えられて、今、目の前に展開されたのだ。

しかも、そのレクイエム…「白のレクイエム」は、今まで見た彼女のどの演技とも違うものだった。
天上の舞。
この世のものではない美しさ。
白い光。

こんなものを、演じられる選手になっていたのか。

驚きと、後は感謝だけ。
私の勝手な願いを叶えてくれた、スケートの神様と、安藤選手に。


安藤美姫の最大の魅力は、「狂気」を演じられる点だと思う。
最初にその片鱗を感じたのは、実はトリノオリンピックの「蝶々夫人」なのだが(汗)
やはりそれを強く感じたのは07-08シーズンの「カルメン」、
そして08-09シーズンの「チェアマンズ・ワルツ」と「オルガン」、昨シーズンの「レクイエム」。
この世ならぬ者の持つ妖しさや儚さ、禍々しさを表現できるスケーターだと思っていて、
そういう作品が好きだった。
実際、世界選手権後にロシアで開かれたチャリティー演技会での「レクイエム」は、
赤いライトの中に黒い衣装が浮かび上がって、「死」の世界を強く感じされる作品になっていた。

けれども今シーズン、エキシビションや「Mission」を通して、
安藤美姫は繊細な「正」の光をも放つことができるようになったと思う。
今回のエキシビションでの「レクイエム」で、それを更に実感させてもらった。

オリンピックで引退せずにいてくれて、本当に良かったと思う。
競技者としてのみならず、表現者としても進化し続ける彼女を見ることができて、本当に幸せなのだ。


…更にこっそり呟き。
今でも私のベストスケーターは「荒川静香」なのだが、
先日テレビでショーでの演技を見て、現役時代よりはるかに深みがでたスケーティングと表現に圧倒された。
トリノが完成形じゃなかったんだ…ということに、改めて驚愕。

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