ひとはいじめをやめられない(中野信子 小学館)再読①
ずいぶん昔、東大教授で地球物理学者の竹内均さんのエッセイに、東大教授もいじめをすると書いてあったのを読んで仰天したことがあった。迂闊にも当時、賢い人はそういうことをしないと思い込んでいたからである。同様に、つい最近あるきれいな女性の集団で凄まじいいじめがあるという話が報道されて、また仰天した。再び迂闊にもきれいな女性はそういうことをしないと思い込んでいたからである。もちろん中国の史書に後宮の凄まじいいじめの記載があることは知っているが、なにしろ白髪三千丈のお国柄であるから針小棒大のお話と思っていた。しかし今回我が国のそれも現在こんなことが起こっていることから推量するに、きっと中国の史書は正確このうえないのであろう。史書に書かれていることは、実際おこったことであろう。
(ついでにこのきれいな女性の集団を管理する人々が、テレビで実に頓珍漢な記者会見をして管理能力がないことを広く満天下に披露してしまった。親会社でいいとこまで出世して最後うまく行かなかったのでここへ天下りしたのであろうが、この程度の人が管理しているのであるからこの電鉄会社の株は遠からず値を下げると予想される。)
旧日本軍の古参兵による新兵いじめがどのくらい凄まじかったかは、実際に経験した人から直接何度も聞く機会があった。(そのいじめの内容は、このきれいな女性の集団の中のいじめを彷彿させるものがある。)旧海軍の艦船の謎の自爆自沈とか、旧陸軍の火薬庫が謎の爆発事故を起こしたのはいずれもいじめが原因である可能性が高いだろう。(絶対に認めないだろう、認めれば組織が崩壊する。無かったことにするのであろう。いじめられて自爆した人の無念に思いを馳せるべきである。)旧ソ連崩壊の前にもソ連軍隊内のいじめが凄まじいとの報道がなされていた。アメリカもベトナム戦争終結の前後に映画「フルメタルジャケット」で軍隊内に深刻ないじめがあることを示して大センセーションをひきおこした。日本の学校内のいじめは昔からあってそれは長いこと無いものとされていたが、近頃急に報道されるようになった。さらには自衛隊内のいじめまで報道されるようになった。
こう並べてみると、組織の負けるときまたは亡びるときそれまでは外部にないものとされていたいじめが、実はあったし現にあると報道されるのではないかと考えられる。(アメリカ軍は、ベトナム戦争終結時にそれまでの軍隊を解体して徹底的な作り替えをしたはずである。だからベトナム戦争時の軍隊は旧アメリカ軍と称すべきものである。)言葉を変えると、最近急にいじめがあると報道されるようになった組織は、負けるか倒れるかの前兆である。下請けいじめや出入りの業者いじめが報道され始めれば、その業界は覚悟せねばなるまい。
学校では教師が同僚どうしいじめ合戦をやっているのに、口では「いじめはいけません」と言っている。児童生徒はその言うところを聞かず行うところまねるのである。児童生徒の眼は節穴に非ず、誰と誰は仲が悪い、誰は誰をいじめているかを全部見抜いているのである。さらに誰が辞めた原因は誰のいじめにあるかということまで見抜いている。教師はいじめの仕方を身をもって児童生徒に示しているようなものである。(ついでに生徒は誰が教頭に出世するかもよく判定できる。現に私は小学生のころすでにこれを的中させた。)
教師の時間外労働が多くて心の病をひきおこし休職が増えているとのグラフがよく報道される。時間外労働の多い職場は他にも一杯ある。それらがみな同じようなグラフになるのか。そうではあるまい。あれは、職員いじめ合戦の被害者の数が過半を占めているのである。文科省は実態を知っているはずである。知らないで役人が勤まるはずがない。知りながらとぼけて時間外労働のせいにしているのである。
このような問題意識をもってこの中野信子さんの本を再読することにした。