これで日本の産業復活か
いきなりだが昔 武見太郎という人がいた。昭和30年か40年ころ医師のストライキによって診療報酬を高くした人である。ために、医師わけても開業医は儲かるとして医学部受験が流行った。医学部に入るために入試問題が、印刷していた刑務所から盗み出される事件まであった。それまでは医学部はごく普通の難易度であった。
医者に有能な人が行くのはよいことであるが、過度に集中してはいけない。世の中には自分の入試に対する力を見せつけてやろうというヒトが本当にいるのである。そんなに勉強ができるなら入試以外の勉強すればいいのにと思うが、本人はそうは思わない。入学試験をオリンピックか何かの場と思っているのである。ために医学部入試はさらに難関になり、予備校がここは儲けが出ると思ったであろう盛んにあおった。日本の理系の才ある若者がこぞって医学部を目指すようになった。この濫觴は武見太郎の指導したストライキにある。
さて最近医師の診療報酬を下げるという。厚生労働省は狡猾にも流行病の流行っているときに医師に儲けが出るようにしむけて、いざ終わると利益率が他の産業に比べて高すぎるといちゃもんを付けて下げるのはやむなしという理屈をつけた。奇しくもこのとってつけたようないちゃもんを付けてでも、診療報酬を下げようと画策している大臣は武見太郎と同じ苗字のヒトである。不思議な縁である。
もちろんこの案には賛否両論あるだろう。わたしは思わぬ理由によって大賛成である。日本の理系の才ある若者があまりにも多く医者を目指すための受験勉強に力を注ぐがために、理系の才を必要とする他の分野に人材がいきわたらなかった。ここを正さないといけない。おカネが儲かる分野にヒトが流れるのは人情で人情を変えるわけにはいかない。ならば、儲かる分野を変えていくより他ない。診療報酬を下げないで必要な分野の給与を上げればいいじゃないかというのは正論である。しかし世の中が正論で動かぬことは新聞テレビのニュースを見れば明らかである。必要な分野の労働者はストライキを打つ環境にないのである。まげて暫時でいいから診療報酬の値下げに応じてもらえまいか。医学部の難易度が他と等しくなったころにまたこっそり上げればいい。
わたしはあまりにも多くの理系の才ある人々が医学部受験に若い時間を浪費するのを見てきた。資源は必要な分野へ効率よく回さねばいけない。こと人材に関しては神の見えざる手が働いているとは思えない。神さんは、石油や石炭やトウモロコシについては盛んに見えざる手を振り回しているようだが、こと人材に関しては完全にサボっておられる、またはやる気がないのである。神さんより武見太郎の方が上手であった。