東京でカラヴァッジョ 日記

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【画像】「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」展(東京オペラシティアートギャラリー)

2022年08月19日 | 展覧会(現代美術)
ライアン・ガンダー
われらの時代のサイン
2022年7月16日〜9月19日
東京オペラシティアートギャラリー
 
 コロナ禍による1年延期を経て開催された本展。
 現代美術に疎い私も、面白く見る。
 
 ライアン・ガンダーは、1976年イギリス生まれの現役作家。
 
 大技を見せつける、のではなく、ユーモラスな小ネタを繰り出してそれらを積み重ねて、全体を作り上げていく。
 心を掻き乱されるような方向ではないので、穏やかに観ることができる。その状態を心地よく感じる。
 的外れではあろうが、本展から、そんな印象を受ける。
 
 
 本展では、作品の配置図と解説が記載されたリストを参照しつつ、作品を鑑賞していく。
 
 思わぬものが作品であったり、思わぬところに超ミニサイズの作品があったり、見るだけではどんな作品なのか全く見当がつかなかったりするので、リストを参照しながら鑑賞しないと、失態をしでかすことになるかもしれない。
 
 
 以下、撮影した写真をもとに、特に楽しんだ作品を記載する。
 
 
展示室入口
 
 床に多数貼られた黒い四角のシール、これらも作品。
 
 
 
入口のすぐ右手
 
 シルバーのプレートは、美術館の施設に付属する何かの設備の一部かと思う一方で、ここにあるのは不自然とも思ったところ、これも作品。
 
 
 丸いところに手をかざすと、レシートが出てくる。
 そのレシートに印字されている数字は、「アルゴリズムによってランダムに選ばれた地球上のどこかの地点の緯度と経度」とのこと。
 私の数字は、帰宅後に検索すると、期待していたとおりイタリア! 
 ではなくて、ロシアのシベリア(ウラル側や極東側ではなく、中央シベリア)のクラスノヤルスク地方の、極寒そうな、人が住んでいなさそうな地点であった。
 
 
 
小さな黒い立方体が全25個並ぶ。
 
 立方体の側面のLCDのバー。
 各立方体は、そのバーがいっぱいになる時間のテーマを持つ。
 
 特にテーマを意識することなく一つ選んで撮影。
 
 撮影してからこの立方体のテーマを確認すると、「エレベスト山頂とその標高と同じ深さの海底における100万年の差」とある。
 なんか真面目っぽいテーマを選んでしまったが、「15秒」でバーがいっぱいとなり、それを繰り返し再生する。
 
 25個のテーマは、社会的・哲学的な立方体もあれば、下ネタの立方体もある。
 25個の時間も、「4秒」ですぐにバーがいっぱいとなって繰り返し再生される立方体もあれば、「347126472秒」(≒11年!)と全くバーが動かない立方体もある。
 
 立方体によってLCDのバーが付いている側面の向きを変えているので、しばしば立ち位置を変える必要があるが、さすがに作品を跨ぐわけにもいかず、移動することとなるのが面倒。
 また、リストを参照しながら各立方体のテーマを確認するのだが、端から何番目の立方体だったか分からなくなることがしょっちゅうで、その都度数え直すこととなるのも面倒。
 これら面倒も狙った作品なのだろう。
 
 
 
等身大の彫刻。
 
 
 リハーサルの舞台裏で出番を待つ脇役とのこと。
 別に男性版の脇役も。こちらは立ち姿で、私より身長が高い。
 
 
 
展示室の壁に目玉。
 
左《あの最高傑作の女性版》
右《最高傑作》
 
 
 鑑賞者に反応するセンサーにしたがって、漫画風の目玉、まぶた、まつ毛が動く。
 みんな喜んで撮影している。
 
 
 
この写真のなかに作品が写っています。
 
どれが作品でしょうか?
 
 
 
ここにあります。
 
 
 
正解は。
 
 床に置かれたマッチ箱。
 フランク・ロイド・ライトが帝国ホテルのオールドインペリアルバーのためにデザインしたマッチ箱を再解釈したものだとのこと。
 「作家がフォントを解体した様子は結果的に形や文字の残骸となり、幾度もの地震や災害に耐えながらも、資本主義の手によって現代まで持ちこたえられなかった建物の歴史を示しています」、そこまでは読み取れないなあ。
 
 
 
展示室の壁の床近くに空けられた小さな穴
 
 日本円のお札が押し込まれて、ガサガサ動いている。
 穴の奥にネズミの存在があるとされている。
 作品名は《僕は大阪に戻らないだろう》。
 僕って誰? 大阪で何があったの?
 
 (2017年に大阪の国立国際美術館で大規模個展が開催されていたようだが・・・)
 
 
 
展示室に置かれた椅子
 
 フランク・ロイド・ライトと遠藤新のデザインによる椅子。
 作品は、椅子ではない。
 作品は、椅子の上に置かれた小さなもの。
 
 
 蚊の実物大の彫刻。
 痙攣しているとの説明だが、動きがあるようには見えない。
 しかし、リストを参照せずに、椅子自体を作品と信じて見ていて、虫の死骸らしきものに気づいたとしたら。
 監視員に指摘する程度であれば、ある意味期待どおりの微笑ましい話だが・・・、(過去、現代美術の展覧会ではないが、展示作品の額に蜘蛛の巣が張っているのを見たことのある)私だったら何をしでかすか分からない。
 
 
 
16点並ぶ額縁入りの紙作品
 
 イタロ・カルヴィーノの名前は聞いたことがあるけど、20世紀イタリアの国民的文豪であるらしいけど、関心を持ったことはないけど。
 そのイタロ・カルヴィーノの小説の一頁を、ガンダーが考案した書体(ガンダーの子供たちが自宅近くの海岸で見つけた石のコレクションをもとに考案)で記したとのことだが、書体どおり石を描いたものが並んでいる。
 加えて、ガンダーによる注釈と評して、黒で一筆二筆。なんか面白い。
 
 
 このシリーズの右から3番目。
 もう一つ、作品を被せている。
 額上部の右隅に置かれた小さな白いもの。
 
 
 ガンダーが捨てたチューインガムをかたどった人造大理石だという。
 額上部でよかった。
 展示室の床に置かれていたら、とんでもないことになる。
 
 
 
展示室の壁の床近くに空けられた小さな穴(その2)
 
 
 
 本展のメインビジュアルを務めるネズミ。
 何かを英語(たぶん)で喋っているネズミ。
 その9分にわたる独白の声は、ガンダーの9歳の娘のもので、チャップリンの映画「独裁者」のラストの哲学的な演説をもとに、ポスト・シミュラークル的な視点で書き替えられたものだとのこと(よく分からないが)。
 
 
 
 以上、ミニサイズ、超ミニサイズの作品を中心に記載。
 
 他には、展示室の隅にネズミが倒れていたり、床に丸められた紙屑が落ちていたり(その紙屑は持ち帰り可。持ち帰りの都度、監視員が新たな紙を取り出して丸めて紙屑にしてから床に置く)、石の自動販売機があったり(諸般の事情により購入不可、事情についてはお察しください、とのこと)、それ以外にも、ユーモラスな作品多数。
 
 作品を探す楽しみ、作品を眺める楽しみ、作品解説を読む楽しみ、作品を撮る楽しみ、それらの楽しみを心地よく感じる、実に楽しい展覧会である。


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