東京でカラヴァッジョ 日記

美術館訪問や書籍など

森洋子『ブリューゲルの世界』(とんぼの本)を読む。

2017年04月28日 | ボイマンス美術館展

森洋子
『ブリューゲルの世界』
新潮社・とんぼの本
2017年4月刊


   ブリューゲル研究の第一人者、明治大学名誉教授、森洋子氏。


   氏は、ブリューゲルに関する著書を多数出されているが、東京都美術館でのブリューゲル《バベルの塔》展にあたり、新たな著書を出されたので、早速購入する。


   本書は全160頁。見せるべき作品図版はしっかりと大判で見せる一方で、参考情報も細かい図版や文字により詰め込めるだけ詰め込む、氏らしい高密度の書籍である。
   『芸術新潮』2013年3月号特集の再編集らしいが、最新の研究内容も取り込まれているとのこと。この内容で1,800円(税抜)。お得感がある。

 

   冒頭の見開き2頁の「ブリューゲル巡礼地図」を眺める。


   ブリューゲルの真作は41点とされる。
   米国3点、不明1点。あと37点は欧州。


   欧州の詳細は、ウィーン美術史美術館の12点を筆頭に、ベルギー2都市2館5点、オランダ1点、ドイツ3都市3館5点、フランス1点、ハンガリー1点、チェコ1点、スイス1点、イタリア2都市2館3点、イギリス2都市4館5点、スペイン1館2点。


   この分布は、フェルメール(作品数最大36点)とは随分違う。カラヴァッジョとも違う。要は米国。画家活動時から今日までずっと西洋美術史の巨匠として扱われてきたことによるのだろうか。息子たちによる多数の質の高いコピー作品の存在も影響しているのかもしれない。


 

 この41点のなかで来日経験のある作品は、次の4点。わずか4点である。


1990年
プラハ・ロブコヴィッツ宮殿
《干草の収穫》
国立西洋美術館「ブリューゲルとネーデルランド風景画展」


1993年
ロッテルダム、ボイマンス・ファン・ブーニンゲン美術館
《バベルの塔》
セゾン美術館「ボイマンス美術館展」
★2017年、東京都美術館「ブリューゲル「バベルの塔」展」で24年ぶりの再来日。


1995年
ダルムシュタット、ヘッセン州立美術館
《絞首台のうえのかささぎ》
東武美術館「ブリューゲルの世界展」


2015年
パリ、ルーヴル美術館
《足なえたち》
国立新美術館「ルーヴル美術館展 日常を描く-風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄」

 

 

   私が実見できたのは、1993年以降に来日した3点。

 


   直近2015年の来日は、前触れもなく突然、公式サイトでも二軍扱い、全くといっていいほど話題にならなかった、という印象がある。


   一方、1993年と1995年の来日はメイン作品扱いで、相応に話題になっていたように思うが、混雑の記憶はない。当時は、専ら夜間開館時間帯に訪問していたからかもしれない。

   

   1993年の展覧会は、《バベルの塔》を熱心に見つめた記憶はあるが、他の作品の記憶が全くない。
   図録(購入せず)は、《バベルの塔》用とそれ以外の作品の二分冊(別売不可)。《バベルの塔》は東京会場のみの出品だったので、次の巡回地では、《バベルの塔》用無しの図録を販売したのかもしれない。
   図録の代わりに購入したのが、展覧会の大判ポスター。長らく部屋に貼っていたが、劣化が進み、引越しを機に処分した。
   
2017年の展覧会の図録には、実物大の《バベルの塔》ポスターが漏れなく付いている。予想される混雑への不満軽減策といったところだろうが、意外とよい。

 

   1995年の展覧会は、《絞首台のうえのかささぎ》が特筆すべき素晴らしさで、さらに、二人の息子の極めてレベルの高いブリューゲル風作品が少なからず出品されていて、えらく興奮した記憶がある。
   私の展覧会訪問歴でも屈指の展覧会の一つに挙げたい展覧会である。


   東京都美術館では、2018年1月から「ブリューゲルの世紀展(仮称)」が開催されるという。間をあまりおかずしての連続ブリューゲル展である。ブリューゲル一族に焦点をあてる展覧会のよう。ブリューゲルの真作出品はないとしても、二人の息子の1995年相当レベル作品を集めて欲しいところ。

 

   1993年、1995年と短期間でブリューゲル晩年の最高傑作の来日で、森洋子先生の著書を複数購入したり、森洋子先生の明治大学の連続講座を聞きに行ったりしていた。その後20年来日なく、近年は存在も忘れていた。

 

   私が実見していない1990年の展覧会も、国立西洋美術館で335,553人、京都国立近代美術館で89,717人と、合わせて40万を超える入場者を記録しており、ブリューゲルの真作の初来日は評判になったと思われる。(会期はほぼ同じなのに、東京と京都の差はなんなのだろう)。

 

 

   さて、冒頭の見開き2頁の「ブリューゲル巡礼地図」で、思い出を書いてしまった。乏しい内容。


   現地訪問記が書けると楽しいのだが、書くことができない。日本の展覧会ばかり。


   実は、10年以上前に、ローマ1点とナポリ2点のブリューゲル作品を見ているのだが、如何せん訪問目的はカラヴァッジョ、ブリューゲルは、作品が展示されていることを確認しただけで終わったようなものだ。10年以上経ってから、惜しいことをしたと知る。



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