東京でカラヴァッジョ 日記

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モローのサロメ像 ー ギュスターヴ・モロー展(パナソニック汐留美術館)

2019年04月15日 | 展覧会(西洋美術)
ギュスターヴ・モロー展
― サロメと宿命の女たち ―
2019年4月6日~6月23日
パナソニック汐留美術館
 

   モローが描いた女性像に焦点をあてた展覧会。
   出品作は全てパリ・モロー美術館が所蔵するモロー作品。
 
   構成は次のとおり。
 
第1章   モローが愛した女たち
第2章   《出現》とサロメ  
第3章    宿命の女たち 
第4章   《一角獣》と純潔の乙女
 
 
   個人的に第2章の「サロメ」がツボにはまったので、本記事では第2章について記載する。
 
   第2章は、大型油彩画、油彩による習作、素描の計26点からなる。全て「サロメ」。そこから7選。
 
 
No.11
《洗礼者聖ヨハネの斬首》
1870年頃、85×60cm、油彩
 
   画面左下に小さく、黄色い衣装を着たサロメ。その黄色い衣装には向日葵の模様(留め具)も認められる。しかし、本作品の主役はサロメではない。
   サロメが見ている画面中央下部に描かれる二人の男。剣を振りかざさんとする刑吏。手を合わせ上方に向かって祈るヨハネ。その前には血が既にべっとり。しかし、本作品の主役は二人の男でもない。 
   真の主役は、画面の大半を占める茶褐色の抽象画のような建築空間。そして、左上から降り注ぐ光の表現である。
   モローがサロメを取り上げた最初期の作品とされる。
 
 
No.12
《洗礼者聖ヨハネの斬首》
42×33cm、油彩
 
   暗い堂内。横たわる斬首後のヨハネ、傍らには大仕事を終えた刑吏。
   隣接する明るい光に照らされた部屋。ヨハネの頭部を盆に乗せ、この場を立ち去ろうとする横向きのサロメ。
   横たわるヨハネは溶けつつあり、身体の形状は判別できない状態。そして、盆の上にあるはずのヨハネの頭部は、溶けきってしまっている。
 
   モローは、後にこの主題を《庭園のサロメ》として絵画化する。掲示の参考図版(水彩、個人蔵)を見ると、サロメは大切そうにヨハネの頭部を運んでおり、本作とは雰囲気がずいぶん異なる。
  
 
No.13
《踊るサロメ》
32×25cm、油彩
 
   1876年サロン出品作、ロスのアーマンド・ハマー美術館所蔵《ヘロデ王の前で踊るサロメ》の油彩習作。
   着衣のサロメがヘロデ王の前で踊る。
 
 
No.17
《サロメ》
80×40cm、油彩
 
   本作も1876年サロン出品作、《ヘロデ王の前で踊るサロメ》の油彩習作。
   筆致は粗いが、完成作と同寸で描かれた着衣で踊るサロメ。
 
 
No.18
《出現》
142×103cm、油彩
 
   狂気に陥った裸体のサロメ。
   宙空に浮き上がるヨハネの頭部。
   周りの人々には見えない、サロメにだけ見えるヨハネの頭部と対峙する。そのサロメの姿を人々は踊る姿と捉えただろう。
   そして王の申し出を受け、対峙したものを要望する。
 
   アーマンド・ハマー美術館所蔵《ヘロデ王の前で踊るサロメ》と同じく1876年サロンに向けて制作していたが、こちらは完成に至らず出品を見送り(代わりに水彩バージョンを出品)。そのままアトリエに置かれ、最晩年になって線描で装飾モティーフを描き加える。
 
   なお、本作は、1964年、1974年、2005年に続く4回目の来日とのこと。
 
 
No.34
《サロメ》
180×90cm、油彩
 
   裸体で踊るサロメが画面中央に正面観で大きく描かれる。
   後景の人々の視線がその裸身に向けられる。
 
 
No.37
《サロメ》
40×32.6cm、油彩
 
   画面一杯に描かれるメランコリックな表情のサロメの横顔。
   画面右奥には刑吏とヨハネの姿がうっすら小さく描かれる。
 
 
 
   無邪気な小娘であったはずのサロメの変貌。

1  踊るサロメ
   ・着衣で踊るサロメ
   ・裸体で踊るサロメ
 
2  牢獄のサロメ
   ・斬首を待つサロメ
   ・首を運ぶサロメ
 
3  狂気のサロメ
   ・宙空の首と対峙する裸体のサロメ
 
 
 
   さて、本展は、私の確認できた範囲では、1995年の国立西洋美術館、2005年のBunkamura以来、首都圏地区で14年ぶりのモロー回顧展。
   東京のあと、大阪(あべのハルカス美術館)と福岡(福岡市美術館)に巡回する。
   3会場合わせて165点の出品。うち水彩画と素描は各会場ごとに全て入れ替わる。油彩は概ね3会場共通展示であるが、《人類の生(第2部)》全10点は大阪・福岡のみの展示となる。
   第2章のサロメで言えば、3会場合わせて71点の出品。東京が26点、大阪が37点、福岡が34点の展示(うち各会場共通13点)となる。
   各会場で異なるモローの女性像を楽しめそうである。
 


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