クラーナハ展-500年後の誘惑
2017年1月28日〜4月16日
国立国際美術館
関西プチ美術旅行の2つめの訪問先。
大阪市立東洋陶磁美術館から、土佐堀川沿いに中之島遊歩道を歩いて約15分。
国立国際美術館のクラーナハ展である。
大阪まで追っかけ!? そんなにクラーナハが気に入ったのか!?
そういう訳ではない。今回のメイン訪問先である、大阪市立東洋陶磁美術館との組み合わせ先を求めるなかで、ここに落ち着いたもの。
結果として、ここを選んだのは正解。
上野で固定化していた鑑賞スタイルが、展示環境が変わって、気分新たに鑑賞。クラーナハ展の素晴らしさを改めて認識した。
中之島は、上野よりキャパシティが大きいようで、ゆったり展示となっていることに加え、ワンフロアで鑑賞が完結できるのは便利。
展覧会構成は勿論同じであるが、作品の展示順もほぼ同じ。上野での1部屋が中之島では2部屋に分かれているとか、上野では左から右に流れていたコーナーが、中之島では右から左に流れている、という程度。
以下では、中之島と上野の主な違いを記載する。
1 大阪限定のクラーナハ油彩画を観る。
《ブドウを持った聖母》
1509/10年頃
ティッセン=ボルネミッサ美術館
1509/10年頃制作、1515年頃制作、1537年以降制作と、3点のクラーナハの聖母子像が並ぶコーナー。これは嬉しい。
ティッセン=ボルネミッサ美術館所蔵作は、本展出品の油彩画のなかでは制作年代が古い作品の一つ。
後年の誘惑する女性とは真逆の、伏せた眼差しの清楚な聖母と、聖母が持つブドウに触れる幼児キリスト。背景に広がる風景。素敵な作品を観た。
この1点を観るだけでも遠征の価値がある。と、とりあえず言っておく。
2 退場・入替の作品たち。
上野をもって退場、あるいは入替となった主な作品。
1)《不釣り合いのカップル》
1530年頃
クンストパラスト、デュッセルドルフ
上野では、ウィーンとデュッセルドルフの2点の油彩画が並んだ《不釣り合いのカップル》。
中之島では、ウィーン作品1点となり、寂しい感が想像以上に強い。
その分2倍、ウィーン作品を眺める。
2)現代作家レイラ・パズーキの《ルカス・クラーナハ(父)《正義の寓意》1537年による絵画コンペティション》
上野では、クラーナハ油彩画《正義の寓意》個人蔵、の実物の隣に、縦5枚×横18枚=計90枚の《正義の寓意》複製画からなる、縦3.6メートル×横9メートルほどの大型作品が置かれた。主役がどちらか分からないほどの存在感。
図録の出品リストには、その複製画90枚のうち1枚だけが中之島に登場する旨の記載があった。
が、現実の中之島には、レイラ・パズーキの作品は全くなく、クラーナハ《正義の寓意》1点が独立したコーナーで、堂々と展示されている。1枚の展示では効果薄と考えられたのであろうか。
ならば、《正義の寓意》をどこかのコーナーに混ぜたらどうだったろう。新たな世界が展開されたのかも。
3)森村泰昌の作品
上野での《Mother(Judith I) 》は、中之島では《Mother (Judith II) 》に入れ替わった。所蔵はどちらも東京都写真美術館である。
森村作品の位置から振り返ってウィーンの《ホロフェルネスの首を持つユディト》が見えるが、その逆は見えない、というのは、上野も中之島も同じ。
3 展示環境
作品の展示位置が、上野と比べ総じて低くなっている中之島。 作品からの距離は、上野より近かったり遠かったり、展示コーナーにより違う。
展示位置が低い+距離が近い、で、恩恵にあずかった作品は、
《ホロフェルネスの首を持つユディト》
1525/30年頃
ウィーン美術史美術館
《洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ》
1530年代
ブダペスト国立西洋美術館
《女性の肖像》
1525/30年頃
ウフィツィ美術館
の3点。上野以上に間近でじっくりと鑑賞できる。
特に、断首された男の頭部をかぶりつき鑑賞!だけでも、遠征の価値がある。と、とりあえず言っておく。
4 写真撮影コーナー
上野の顔出しパネルをそのまま持ってきた。
上野の会場名は消しても、会期は残すのは何故?
以上をもって、今回の関西プチ美術旅行は終了。
次回の関西プチ美術旅行は、是非とも今年の4-5月に実現したいところである。
4~5月にまた関西に行かれるとのことですが、私も4月頃に約2年ぶりに関西へ行く予定です。それは奈良博の快慶展を見るためです。また天王寺の大阪市立美術館で開催される木彫の仏像の展覧会で、見たことのない作品が出るようなら大阪にも寄りたいと思っています。京都や滋賀では特に見るべき展覧会や特別公開はないので、大阪市美に行かないなら奈良日帰りになるかもしれません。
なお、ご存知かもしれませんが、森アーツセンターギャラリーで3/18から3ヶ月間開催される「大エルミタージュ美術館展」でクラーナハの「林檎の木の下の聖母子」という絵が来ますね。写真ではなかなかいい作品のようです。
http://www.roppongihills.com/museum/
コメントありがとうございます。
今回の関西旅行では、北宋汝窯青磁水仙盆展、クラーナハ展と、短いながら充実した時間を過ごすことができました。
春の関西旅行が実現するならば、メイン訪問先は奈良博の快慶展を考えています。
もう一つ組み合わせ訪問先を検討中ですが、大阪市立美術館の「木と仏像」展が有力候補です。
京博の「海北友松」展も気になりますが、奈良博と組み合わせるのは厳しい感じです。
神戸市立博物館の「遥かなるルネサンス」展は、国立国際美でフライヤーを見つけ、先に東博で展示された《伊東マンショの肖像》も出品されることを知りましたが、秋の東京への巡回を待ちます。
他に見逃しがないか、引き続き確認をしていきます。
大エルミタージュ美術館展と題する展覧会は、今回が3回目になるのでしょうか。クラーナハ作品は、今回の目玉作品扱いのような感じなので、今から期待しているところです。
それでルーベンス展にはどんな作品が出るのかと思い、西美のHPを見ていたら、今年の新規購入作品として、クラーナハの「ホロフェルネスの首を持つユディト」が出ていました。
http://www.nmwa.go.jp/jp/information/whats-new.html#news20181012_2
10月10日から本館2階の常設展で展示しているとのこと。
例のクラーナハ作品デジタルアーカイブスを確認したら、P30にモノクロ写真でプライベートコレクションとして掲載されていました。
http://lucascranach.org/PRIVATE_NONE-P121
http://lucascranach.org/gallery
これはルーベンス展に行った時に必ず見てこないといけない、と思った次第。(ルーベンスよりも楽しみ)
西美のルーベンス展に行かれたら常設展示もお忘れなく。
コメントありがとうございます。
クラナーハ作品購入の件は初めて知りました。
作品の質はどうなのでしょうか。購入金額(および相手先)についてはネット検索で分かったものの、相場がわからないので評価できません。実物が楽しみです。ルーベンス展鑑賞時にあわせて見たいと思います。
また、版画素描展示室で同会期で開催される「ローマの景観」展も面白そうなのでこちらもあわせて鑑賞したいと思います。
ルーベンスは、カラヴァッジョがローマ画壇の寵児であった時期にローマに滞在し、《キリストの埋葬》の模写とか《聖母の死》の購入斡旋とか、直接的にカラヴァッジョ本人とではないにしても、その作品とは関わりがあるイメージはありました。ただ、《ロザリオの聖母》とも関わりがあるとは知りませんでした。
今回のルーベンス展は「イタリアとのかかわりに焦点を当てて紹介」するとあるので、個人的には、ルーベンスがイタリアに滞在した1600-08年制作の作品やカラヴァッジョの影響が顕著な作品がどの程度出品されるのか、に注目しているところです。本展の狙いとは別のところを期待している感が濃厚ですけれども、ルーベンス展が一層楽しみになりました。ありがとうございます。
また、ルーベンスによる「ロザリオの聖母」の売買斡旋については、例えば岡田温編「カラヴァッジョ鑑」のP471(ロベルト・ロンギ著のカラヴァッジョ(抄))に「1607年9月、ナポリで売りに出ていて、…フィンソンの配慮によってベルギーに到着し、またもルーベンスの斡旋でアントワープのドミニコ会教会に運ばれ…」とあります。この「またもルーベンスの斡旋」という「またも」の1回目が「聖母の死」のことです(同書P469)。
西美のルーベンス展ですが、今日初めてHPに出品作品リストが公開されました。これを見ても展示替えのことが書かれていないので、全ての作品が全期間展示されると思います。これでいつ見に行ってもよいということになります。また、12/8の渡辺晋輔氏による講演会のテーマが 「ルーベンスとイタリア美術」なので、これは聞きにいこうかと思っています。
上の投稿でルーベンスはあまり好きではないと書きましたが、2年前にウィーン美術史美術館で見たメデューサとか四大陸の寓意画(虎とかワニが描かれている絵)はなかなか面白いと思ったことを付け加えておきます。
私の確認先は次です。うまく開きますでしょうか。
https://kanpou.npb.go.jp/old/20180903/20180903c00166/pdf/20180903c001660095.pdf#search=
「カラヴァッジョ鑑」は、発売当初にその厚さ(と値段)を見て購入を躊躇してしまいました。教えていただきありがとうございます。
ルーベンス《メドゥーサ》は、以前来日した際(たぶん2002年)に見ましたが、インパクトのある作品ですね。
ルーベンス絵画のなかでは、私的にはミュンヘンの《レウキッポスの娘たちの略奪》でしょうか。巨大な作品とのイメージをずっと持っていたのですが、今そのサイズを確認すると220×210cm前後、騒ぐほどの大きさでもなかったのだなあ、と認識を改めているところです。
やはり官報だったのですね。以前仏像関係で国が購入した情報を官報で読んだことがあったので、今回もさがしてみたのですが分かりませんでした。
クラーナハのユディト関係のことは10/24付けの別ログの方にコメントします。
「カラヴァッジョ鑑」は私も持っていません。図書館で借りて必要な部分だけをコピーしました。(半分ぐらいはあまり関係ないエッセイのような内容なので)
それでロザリオの聖母について、他の本もちょっと調べてみました。ロンギは「斡旋した」と書いていますが、「聖母の死」のケースとは少し違うようです。タッシェンの大型本カラヴァッジョ(シュッツェ著)のP269には「ルーベンスとヤン・ブリューゲル(父)を含む芸術家のグループによって取得」とあり、また、「ルーベンス回想(ブルクハルト著、ちくま学芸文庫)」のP31には「ヤン、ルーベンス、ヘンドリック・ファン・バーレン、コーセマンス」の4人の名前が載っていて、「この絵を購入する決意を中心になって推し進めたのはルーベンスであったことはまず間違いない」としています。
更に本日24日、石鍋氏が朝日カルチャーセンター立川で行う講演会「ルーベンスとイタリア」でも「(この4人の中で)イタリアでカラヴァッジョの絵を見たことがあるルーベンスが『カラヴァッジョの絵が売りに出ているなら買うべき』と言ったと想像できる」という話しをされるそうです。なお、ルーベンスとカラヴァッジョの関係で現在分かっているのは、オタワにあるキリスト埋葬の模写、聖母の死、ロザリオの聖母の3件だけのようです。
コメントありがとうございます。
ルーベンスとカラヴァッジョとの関わりについて、現在分かっているのは、《キリストの埋葬》の模写、《聖母の死》の購入斡旋、《ロザリオの聖母》の3件であり、いずれもカラヴァッジョの祭壇画を通じた間接的な関わりであることを認識しました。
ご教示ありがとうございます。
コメントありがとうございます。
そして、貴重なカラヴァッジョ情報をありがとうございます。
ルーベンスはフランチエージ聖堂の「マタイの召命」を模写した素描があるとのこと、どんな画なのか、所蔵者は誰か、関心大、私も図版を探してみようと思います。
講演会については、私も行きました。全く認識せず、別の展覧会目当てで上野へ→西美の常設展の無料観覧日と知り、館内へ→行列を見て予定変更、という次第です。
講演会は非常に興味深いものでした。本展は当初「イタリア・バロック美術とルーベンス」という企画名から始まったとの余談がありましたが、そのまま進めば、構成・出品作は違っていたのでしょうか。展覧会自体は、一番印象に残るのは「聖テレサの頭部」だったりします。