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アルチンボルドの《四大元素》連作-《大気》《火》《大地》《水》-アルチンボルド展(国立西洋美術館)

2017年06月30日 | アルチンボルド

アルチンボルド展
2017年6月20日~9月24日
国立西洋美術館

 

   アルチンボルドの《四大元素》連作-《大気》《火》《大地》《水》-について記載する。

 

   アルチンボルドは、ウィーンに到着して間もない1563年に、《四季》連作を制作する。そして、1566年に、《四大元素》連作-《大気》《火》《大地》《水》を制作する。

 

   この2つの連作は、1569年に神聖ローマ帝国皇帝マクシミリアン2世に献上される。

 

   《四大元素》連作も、《四季》連作と同様に、たいへん人気があったらしく、その後いくつかのバージョンが制作されているようである。

 

   そこで、 《四大元素》のバージョンについて、先の記事の《四季》と同じように、確認したい。本展図録のみを確認材料としている。

 


   1569年に皇帝に献上されたバージョン、いわゆるウィーン・バージョンであるが、現在ウィーン美術史美術館が所蔵するのは、今回来日の《水》と非来日の《火》の2点であるらしい。

   残り2点はどこにあるのか。

   《大地》は、現在リヒテンシュタイン侯爵家コレクションが所蔵する作品-今回の来日作品-がそれだろうと考える説がある。本展企画者は、制作年が「1566年(?)」としていることから、全面的にそうだとは考えてはいないようだ。消失したという説もある。

   一方、《大気》はというと、残念ながら消失したと考えられているようだ。

 

   次に他バージョン。

 

   と進みたいところだが、他バージョンの情報は、《四季》連作のようには明確ではない。《四季》連作のようにまとまって所蔵する先がないため、ということなのだろうか。

 

   次に本展出品作の《大気》《火》《大地》《水》を見ていく。

 

   まず、人物像の性別。
   《四季》連作と同様にイタリア語の名詞性に倣っているならば、《大気》《大地》《水》が女性、《火》が男性を描いていることとなるのだが。

   と思っていたら、ラテン語やイタリア後の名詞性に倣っているのではなく、錬金術的な性質によっているとのことである。《大気》と《火》が男性的性質、《大地》と《水》が女性的性質。

   人物像の年齢。
   《四季》連作のような各世代への対応はなさそう。


   人物像の向き。
   《火》《水》が向かって左、《大気》《大地》が向かって右と、《四季》連作とペアで向き合うように構成されている。


《大気》-《春》「暖」と「湿」
《夏》-《火》  「暖」と「乾」
《大地》-《秋》「寒」と「乾」
《冬》-《水》  「寒」と「湿」

そして、向かい合うそれぞれが男女ペアとなる。見事な調和の世界である。

 

 

《大気》(作者は?付)
スイス・個人蔵


・作品レベルは、ちょっと寂しい。
   本展企画者も、作者名を「アルチンボルド(?)」としており、コピーか工房作と考えているようである。
・頭髪部分は、鳥がびっしりと、ごちゃごちゃと描き込まれていて、ちょっと不気味。
・頭部を支える鷲はハプスブルク家の象徴、大きく目立つクジャクは、ハプスブルク家の紋章に登場する。

 


《火》(作者は?付)
スイス・個人蔵

 

・作品レベルは、ちょっと寂しい(上記図版はそれほどでもないかも)。
   本展企画者も、作者名を「アルチンボルド(?)」とし、アルチンボルド作ではないだろう、と考えているようだ。
・火に関連するものの数々。
頬は火打石」

「首と顎は燃える蠟燭もオイルランプ」
「鼻と耳は火打ち金」
「ブロンズの口ひげは火を起こすのに使う木くずの束」
「目は火の消えた蠟燭の燃えさし」
「額は束ねた導火線」
「頭髪は燃えさかる薪」
「胸部は武器」、「ふたつの大砲、そして火をくべるシャベルと銃」
「金羊毛騎士団章」はハプスブルク家の象徴

 

 

《大地》
1566年(?)
リヒテンシュタイン侯爵家コレクション

・ウィーン・バージョンかもしれない、とされている。作品のレベルは高い。
・「大地」は動物たちの寄せ絵。頭部を支えるライオンと羊はハプスブルク家の象徴、色っぽすぎる背中を見せる牛、象の耳は人の耳、狼の開いた口は人の目、色っぽい姿勢の野ウサギは人の鼻、キツネの尾は人の眉。

 


《水》
1566年
ウィーン美術史美術館

・ウィーン・バージョン。
・「62種の魚類や海獣などの水に関連する生き物が、大きさを無視して描きこまれ」ている。
・「ほとんどが地中海に住むものであり、カワカマスとカエルのみが淡水に住む生物」「一方で、地元の淡水魚や、当時君主の食卓に普及していた海水魚は見られない」。
・「マンボウの目がそのまま人物の目に」、「サメの開いた口を人物の口に」しているあたりは、思わず微笑んでしまう。カワウソくんとカエルくんが特に可愛い。
・「ウニのような生物のとげによって王冠が表わされており、この人物に皇帝が重ね合わされている」。


   この《水》はたいへんな傑作である。と思う。
   魚介類を描く博物画として見ても、実に素晴らしい作品。
   たいへんな傑作であるウィーンの《水》とたいへんな傑作であるウィーンの《冬》がペアになり、向かい合うように展示されている。
   崇高な展示空間、本展の一番の見所である。

 

   本展には、《水》がもう1点、第3章「自然描写」に展示されている。


アルチンボルドの追随者
《水》
ブリュッセル、王立美術館


   ウィーン・バージョンのほぼ忠実なコピーとされているようだが、この作品の過去の修復にて「裏打ちの過程でアイロンを当てられた結果、絵具は厚みを失って」おり、生き生きとしたウィーン・バージョンを見てしまったあとでは、残念な作品となっている。

 

   第3章「自然描写」は、この追随者による《水》のほか、当時の芸術家たちによる動物・魚類のスケッチや工芸品が展示されていて、宮廷における「博物」に対する強い関心がアルチンボルドの2つの連作制作の背景にあることが分かる。第4章「自然の奇跡」は、同じ興味が同じように人間に対しても向けられていた一例を示す。



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