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大衆が求めている、あるいは、たくさん売れると出版者が考える、関東大震災の震災像。
火災の赤色が鮮烈な、石版画に表されている。
北原糸子他著『関東大震災絵図』東京書籍、2023年刊で紹介されている、都市防災研究家・吉川仁氏の整理によると、関東大震災の石版画は、3社の版元より、1923年9月30日から翌年5月5日までの間に全25点が発行されている。
尚美堂 :8点
天正堂・集画堂:7点
浦島堂 :10点
描かれた場所は、「当時の人々のよく知る場所であり、震災でどのような被害を受けたのかと関心を抱かれる」場所で、8場所に限られる。
3社とも、同じ場所を同じような図柄で制作している。
(追記2023/12/7:3版元あわせて27点あり、うち吉川氏が確認できたのが25点のこと。)
今般、浦島堂発行「帝都大震災画報」 10点のうち8点を見る。
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社(旧同和火災海上保険)の災害資料コレクションの一部。
同コレクションは、18世紀から20世紀初頭に全国各地で発生した(地震に限らない)さまざまな災害を網羅する総点数1,460点からなり、2018年から京都府京都歴史博物館に寄託されているとのこと。
「伝える-災害の記憶」あいおいニッセイ同和損保所蔵災害資料
関東大震災100年-資料でたどる災害今昔展
2023年9月1日〜9月24日
UNPEL GALLERY(あいおいニッセイ同和損保八重洲ビル1F)
浦島堂発行「帝都大震災画報」
《丸の内警察庁・帝劇・東京会館附近の猛火
猛火烈風に煽れて銀座街を焼尽す》
大正13年4月20日発行
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《烈風猛火を煽りて神田万世駅附近を焼尽す》
大正13年4月20日発行
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《激震ト猛火ニ襲ハレシ上野広小路松阪屋附近之真景》
大正12年10月20日発行
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《猛火ニ包囲サレタル浅草観世音之真景》
大正12年10月20日発行
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《浅草公園花屋敷及十二階之真景》
大正13年3月15日発行
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《新吉原遊郭仲之町猛火大旋風之真景》
大正13年3月15日発行
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《新吉原遊郭花園池避難者ノ惨状大混乱之真景》
大正13年4月5日発行
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《本所石原方面大旋風之真景》
大正12年10月20日発行
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阿鼻叫喚の図柄。
阪神淡路大震災や東日本大震災などでも、類した映像・写真などを見たことがあるような。
なお、発行日は、吉川氏の整理と一致しないものもあり、どうやら複数回発行されたようである。売れたらしい。
(吉川氏によると、1枚の値段は、1円50銭くらいだろうとのこと。現在価値では5000円ほど。結構な値段である。)
(追記訂正2023/12/7:一枚の値段は50銭から1円くらいとのこと。現在価格で3000〜5000円程度とのこと。)
浦島堂発行10点のうち残る2点は、次のとおり。
《日本橋大通り三越呉服店附近延焼乃真景》
《激震と猛火に襲われし神田万世駅惨状の真景》
本展には、上記8点の石版画以外にも、参考出品として、安政2年(1855年)の江戸地震にかかる震災図10点も展示される。
《新吉原大地震大火乃図》錦絵
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あいおいニッセイ同和損保の災害資料コレクションは、現在、展覧会として全国各地を巡回中とのこと。2021年に京都歴史博物館、2022年に山梨県立博物館で開催、2023年10月からは福島県立博物館にて開催予定。
また、10月11日からは、国立科学博物館「関東大震災100年企画展 震災からのあゆみ - 未来へつなげる科学技術 -」展でも、特設会場(日本館1階中央ホール)にて展示を開始するとのこと。これら石版画が登場するのだろうか。
*吉川仁様からコメントをいただき、2箇所追記しました。吉川様には感謝申し上げます。
コメントありがとうございます。
震災石版画一枚の値段は、「1円50銭ぐらい」ではなく、「50銭から1円くらい」ということですね。
また、3版元あわせて27点あり、うち確認できたものが表3の一覧に記載された25点ということですね。
承知いたしました。
わざわざお教えいただき、誠に恐れ入ります。