会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

原発をめぐる「国家的粉飾」(現代ビジネスより)

原発をめぐる「国家的粉飾」

経産省が検討しようとしている原子力発電所の廃炉の会計処理を取り上げたコラム記事。経産省の元官僚(現在官僚と対比させて過去官僚というそうです)が書いています。

「原発を40年経たずに廃炉にすることが決まった場合どうなるのか。原発の設備も、使えなくなる使用済み核燃料もただのゴミと同じだから、直ちに損失処理が必要となる。廃炉費用も即時積み立てが求められる。全原発の廃炉を今決めると、経産省の試算では、日本原電を含めた電力10社で、4・5兆円の損失が出る。その結果、6社が債務超過、つまり破綻するという。経産省は、このことをことさら危機であるかのように喧伝している。

しかし、電力会社が債務超過になれば、会社更生法などで破綻処理すればよいだけだ。経営者はクビになり、株は紙切れ、銀行の債権は大幅にカットされる。それでも電力は止まらない。独占企業の電力会社から顧客は逃げられない。日々の料金収入でキャッシュが不足することはない。万一の場合は、政府が緊急融資などの支援をする準備さえしておけば十分だ。

(中略)

しかし、経産省の計画は、本来すぐに行うべき損失処理を分割して行うことにより、電力会社が債務超過に陥ることを回避するというものだ。こんなことをすれば国家的な粉飾だ。東証がこんなことを許すのだろうか。世界のマーケットも驚くだろう。」

大筋では正しいことを行っているように思われますが、感想も交えて若干補足したいと思います。

まず、どのような会計処理を行っても、キャッシュ・フローへの直接の影響はありません。

関連する資産の減損処理を行い、廃炉のための引当金(稼働中は資産除去債務)の不足を一挙に計上しても、それだけではキャッシュの流出はありません。損失は一挙に出るかもしれませんが、それは資産帳簿価額に含まれていた過去の支出が損失化したものか、あるいは、おそらく十数年(廃棄物処理まで考えると何千年)かけて発生するであろう廃炉作業のため支出が前倒しで損失化されたものにすぎません(しかも廃炉作業の支出については資産除去債務としてかなり計上済みのはず)。4・5兆円のキャッシュがすぐに必要になるわけではありません。このあたりは、経産省による情報操作なのでしょう。分割処理などは決して認めるべきではありません。

もちろん、廃炉関連の減損損失や引当金の不足を国が負担するのなら話は別です。国の負担分を国に対する未収入金(長期分は長期未収入金)として計上することになります。もともと固定資産の帳簿価額は長期に回収する予定のものであり、また廃炉のための支出が現実に発生するのはだいぶ先の話でしょうから、国から実際に支払ってもらうのは、超長期の延払いでもよいでしょう。

規制されている電気料金に加算して回収する(要するに利用者が負担する)場合も何らかの資産計上があり得るかもしれませんが、現行の会計基準では明確になっていないと思われます。また、この方法が認められるためには、少なくとも、電気料金への上乗せをするということがはっきり決まっていなければなりません。そこがあいまいなまま、会計ルールだけ変えて、損失の繰り延べをしようとするのは、まさに粉飾です。

(しかし、東電の実質的粉飾決算の例を見ても、経産省は粉飾決算に対する罪の意識はまったくないようなので、きっと、学者らを隠れ蓑にして、マスコミにリークされているような方法を押し通すのでしょう。)

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