日本公認会計士協会は、「品質管理を中心とした自主規制の在り方研究会報告書」を、2018年2月16日に公表しました(報告書の日付は1月15日)。
協会の自主規制機能の中核をなす品質管理制度について、自主規制の意義・内容などの原点に遡って研究するため2017年12月に設置された「品質管理を中心とした自主規制の在り方研究会」(構成員は外部有識者及び協会役員、構成員長は早稲田大学名誉教授の鳥羽至英氏)の報告書です。
40ページ弱のボリュームのものです。アンケート結果などの資料が別に添付されています。
研究会は、2016年3月から4月にかけて会員・準会員・監査事務所に対してアンケート調査を実施し、この報告書では、アンケート結果の分析に基づいてさまざまな提言を行って行っています。この報告書の基礎となっている詳細な「監査の品質管理に関するアンケート調査結果の分析・評価と自主規制強化のための提言について(報告)」という別の報告書も会員向けに公表予定です。
報告書のアプローチの特徴は...
「我が国の監査プロフェッションが直面している監査の品質に関する問題に対する解決の手がかりは、我が国の中に求める必要がある。『研究会報告書』及び『作業部会報告書』は、監査の品質に影響を与える要因を多面的に理解した上で、それに対する認識を、監査現場において監査の品質に心を配っている個人会員及び監査事務所に求め、その調査結果を分析するアプローチを採用することによって、監査の品質の向上に向けての改善や改革に資する情報を提供することを目的としている。」(報告書4~5ページ)
提言の内容は以下のとおりです(報告書で太字になっている部分を中心に抜粋)。
提言1:監査時間の改善
「協会は、会員が現在深刻に感じている監査時間問題を解決すべく、関係諸団体との間で新たな議論を行うとともに、証券市場機能における監査事務所による財務諸表監査の重要性を説明し、とりわけ我が国の財務報告制度上の建付けが与えている期末監査における監査時間不足問題が少しでも緩和されるように、現行の制度の改革又は運用上の調整を求めること。なお、これに関して、監査時間が、監査実務においてどのように配分され、どのように不足しているのかを具体的に明らかにし、監査時間の使われ方の状況を全体として把握すべく調査・研究を行うこと。」
提言2:監査報酬の改善
「協会は、監査報酬の問題が一向に改善されないとされる現在の状況を深刻に受け止め、その状況を全体として少しでも改善するための協会としての施策(対応)を模索すること。
加えて協会は、会員及び関係諸団体に対して、証券市場機能における監査事務所による財務諸表監査の重要性を、監査の品質と国際的コンテクストを踏まえて丁寧に説明し、監査報酬の水準の是正を求めること。」
提言3:財務報告制度と監査の品質の関係
「協会は、企業内容開示制度の基幹ともいうべき財務諸表監査本体の有効性をどう高めるかという本筋の議論から、四半期レビューや内部統制監査といった現行の関連諸制度の機能と関係を全体的に検討すること。」
提言4:CPAAOB 検査と品質管理レビューとの関係
「協会は、更に有効で効率的な品質管理レビューが実施できるように、公認会計士・監査審査会と意見交換を行い、CPAAOB 検査との間で調整を図ること。
「両者間で調整を図った事項の具体的内容及び品質管理レビューの在り方に影響を及ぼした部分については、監査事務所の品質管理責任者に情報を提供する仕組みを整備し運用すること。」
提言5:協会における守秘義務
「協会は、守秘義務問題が有する現代的な意味を積極的に理解し、十分な検討・議論を行い、法律専門家との協議等も図り、少しでも前向きにとらえて対応を開始すること。」
(「「守秘義務」を理由にした極度に抽象化(一般化)された監査の品質に関する情報提供や情報協力では、外部からの批判や分析による監査品質の向上の機会を遠ざけるだけ」と述べています。)
提言6:品質管理レビューの在り方
「協会は、監査規範への準拠性チェックと監査手続の実質面のチェックとの間のバランスを一段と図るべく、監査手続の実質面を品質管理レビューでどのように見ていくかについて継続的に検討・改善を行うとともに、その検討結果が継続的専門研修(CPE)制度、監査業務審査・規律調査制度等の自主規制の仕組み及びその運用に適切に反映するよう、必要な対応を行うこと。」
提言7:品質管理レビューの実施範囲とリソース
「リソースをレビュー対象事務所又は対象監査業務の数やレビュー頻度に向けるのか、社会的
影響度の高い上場会社を監査する監査事務所のレビューの深度に向けるのか、基本的な方針を定めること。」
提言8:レビューアーの質の向上
「協会は、協会リソースの効率的運用の視点と被監査会社からの品質管理レビューに対する理解という視点から、レビューアーの採用、処遇、研修、職務評価の在り方等を含め、レビュー組織の機能を絶えず評価する仕組みの検討を行うこと。」
提言9:品質管理レビュー制度に対する会員の理解
「協会は、監査業務の実施に関心と時間を注いでいる会員に対して、どのような啓発や研修が有効であるのかを検討すること。」
提言 10:品質管理レビュー・監査業務審査に対する社会の理解と信頼
「社会的に重要な影響を与える個別事案が生じたときに、当該監査業務に問題はなかったのか、また、当該監査事務所に対して行われていた品質管理レビューの有効性に問題はなかったのか等、協会が調査し、その結果を具体的に社会に対して示すことが必要である。このような事案の場合には、品質管理委員会のみならず、監査業務審査会が関わることも当然予想される。協会は、どういう組織体制で、どの範囲で、かつ、どの時点で、こうした個別の事案に臨むべきであるのかについて、新たな組織編成や会則等のルール改正も視野に入れながら、その基本方針等を設定し、それに基づいて公正な対応をすること。」
提言 11:品質管理レビュー結果に関する協会の社会に向けての説明責任
「協会は、どのような形での説明責任の遂行が適切なのかを含めて、品質管理レビューにおける開示の領域について、検討とその実施に向けての準備を模索すること。」
提言 12:継続的専門研修(CPE)における研修科目の在り方
「協会は、監査品質という視点で、いかなる研修科目が必要であるのか、監査判断の質を高めるため、監査業務審査会で問題となった監査事例、金融庁による処分事例、社会で問題となった会計不祥事等、監査の現場で何が起こり、関与した会員がどのような判断をしていたのか等に焦点を当てた研修科目と教材の開発に取り組むこと。」
提言 13:監査リスク・アプローチの実務上の適用
「協会は、中小事務所等施策調査会における実務的なアプリケーションの開発・指導や継続的専門研修(CPE)を行っているが、かかる研修を行う場合に必要とされる教材の開発において、現場のこうした要望を踏まえてさらなる対応の検討を行うこと。」
提言 14:職業倫理意識の昂揚に資する実務的研修の実施
「協会は、規則の解説に重点を置いたこれまでの職業倫理研修を見直し、特定の監査事案における会員の職業倫理の不十分さを、職業倫理規則に照らして具体的に説明する取組等、監査現場に従事している会員にとって一層役立つものに変えていくような取組を検討すること。」
提言 15:監査業務審査会と品質管理委員会の関係
「協会は、監査業務審査会と品質管理委員会とが相互に情報を共有し、調査に係る会員の負担の軽減と協会の業務の効率化を図ること。
併せて、協会は、監査の品質の自主規制に関係している監査業務審査会と品質管理委員会の在り方に関し、これまでのそれぞれの経緯を一旦横におき、新たな視点から検討すること。」
提言 16:監査の品質の維持・向上のための監査事務所の規模
「協会は、監査事務所が監査の品質を維持・向上させるためには、被監査会社の数・規模・複雑性等に応じた監査事務所の規模を適正に維持する必要があることを認識し、品質管理レビュー等で監査事務所の規模と被監査会社の数・規模等のバランスをモニタリングし、必要に応じて指導を行うこと。」
提言に対する協会の対応は...
「協会は、本報告書に記載されている提言について具体的な施策を検討し、必要に応じて、現在の制度や枠組みを前提とした個々の対応にとどまらず、自主規制の原点に立ち返った横断的な対応を含めて検討を進めていく所存です。」(会長名の発表文より)
報告書では、提言に入る前の箇所で、「監査の品質」そのものについて、定義なども含め議論しています。その中では、会社と監査人が自由に契約を結ぶという監査契約のあり方についてもふれています。
「世界の監査プロフェッションがこれまで標榜してきた考え方は、監査を受ける立場であっても、監査人を選択する権利は認められるべきであり、また、監査をする立場であっても、被監査会社を選択する権利は同様に保障されなければならない、という考え方─契約自由─である。この契約自由を守り抜くためにも、監査の品質の向上に向けての監査プロフェッショナリズムは本質的に重要である。」(報告書9ページ)
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