母がいて父がいて、就学前の幼い私がいる。父母は農作業に精を出していた。幾つも連なった稲わらの束のあちこちを走り回ってかくれんぼをした。父母はそこそこに鬼となり隠れ役の私を探すふりをして遊び相手をしていたが、その内に私が疲れたのか、あまりかまってもらえずスネてしまったのか記憶はおぼろげだが、わらこづみの中に眠ってしまった。
夕闇せまる薄ら寒い田んぼのわらこづみの中で目を醒ました私が、父母に忘れ去られてしまったことに気づくのは簡単だった。心細さと恐怖を大声で泣きながら見えぬ父母に訴えた。
すまなさそうに「ごめんごめん」と迎えに来た母。刈り入れが終わり稲わらが田んぼに行儀良く並ぶと当時のかくれんぼ事件を懐かしく思い出してしまう。