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カリンの実は熟すまでに落ちてしまう数のほうが多いように感じる。まるまる成長した実が根方に転がっていたので二つ拾って石の上に寝かせた。緑色だった実は朽ちながらも黄色に変化して本来のカリンの実らしくなった。カリンの仄かな香りの良さに魅かれる生き物は人だけではない。アリ、蝶等の昆虫が足繁くやって来て来る。
良く晴れた日のこと、この近辺を縄張りにしているノラネコがカリンの実を抱くようにして居眠っていた。トラ模様の立派な体格をしたネコだった。カリンの実に魅かれたのか、この石が陽だまりに程良い温もりがあったのか、ネコに聞いてみたい。
秋のつるべ落としの夕陽が沈みはじめても、この石の上のカリンの黄色い実だけは暮れ残りしばらく夕陽に照っている。そして、危うく命びろいをしたカリンの実は、数枚葉っぱを残した梢の先っぽで少しずつ塾し始めた。