脚本 『おばあちゃんのすべりだい』

認知症について、理解を進めるための紙芝居です。

これは入所編。在宅編はこちら

『おばあちゃんのすべりだい』 
   石倉恵子/脚本・絵   平成21年7月

① 
こうすけ君の家族は、こうすけ君とお父さんお母さん、それから優しいおばあちゃんと金魚のキンコです。

② 
ところで、このおばあちゃん、物をわすれるのが とても得意。
「こうすけ、おやつだよ、キンコも食べにおいで」おばあちゃんが呼んでいます。
「あれっ、さっき食べたけどな。それにおばあちゃん、キンコは金魚だよ」 
そんなわけで、
(三分の一抜く)
こうすけは、今日、2回目のおやつをたべました。
「えへへっ、キンコの分もだってさ。すごくいっぱいだ。得しちゃった。」
   (全部抜く)


「こうすけ、お母さんに、ごはんまだかって 聞いてくれるかい?」
「あれっ、さっきおひるごはんたべたばかりだよ」
「ああ、そうだったかね。ラーメンだったかね?」
「ううん、チャーハン」
「ああそうかい、ラーメンだったか」・・あれれ。
「じゃあ、こうすけ、家に帰ろうか」
「あれっ、おばあちゃん、ここ自分のへやだよ」
「そうかい、じゃあ、キンコの家に帰ろう。」
「えーっ?」

④ 
しかたがないので、こうすけはおばあちゃんと散歩にでかけました。遠くに飯綱山が見えます。
「こうすけが小さい時、あの山ですべりだいして遊んだもんだがな」
「え~?山ですべりだい?そうだったっけ」
こうすけが、ふと、横を見ると
(三分の一抜く)
おばあちゃんがいません。あれっ。
   (全部抜く)

⑤ 
ブブブー キキッ、
「危ない!おばあちゃん、そこは道の真ん中だ、あっ、信号がもう変わってるよ。早く早く!
どうしたんだろう、おばあちゃん、なんだか、昔と変わっちゃったな。」

⑥ 
そして、その日の夜中のことです。こうすけはふっと目がさめました。
「なんだかうるさいな、どうしたんだろう」
お父さんお母さんの声に混じって、おばあちゃんの声も聞こえます。
「大変だ、アタシの財布がないよ。キンコが取ったんだろうかね。いや、泥棒かも知らん。」
「お母さん、しっかりしてくださいよ。よくさがしてみましょう」
「え・・どろぼう?」こうすけが近くに行くと

⑦ 
お父さんが財布を持って立っていました。
「ほら、押入れの中にあったぞ。泥棒じゃないんだよ」
するとおばあちゃんは、急にすわりこみました。
「お便所はどこかなあ」
「え、お便所?お便所どこかわすれちゃったの、あっ・・」
おばあちゃんは、その場でおもらししてしまいました。
おかあさんは、服を着替えさせたり、掃除をしたり、それはもう大変です。

⑧ 
布団に入ると、すぐにおばあちゃんは眠ってしまいました。
「おばあちゃん、あかちゃんみたいだね」
こうすけが言うと、お父さんが教えてくれました。
「人の頭の中にはね、いろんなことを考える脳というものがあるんだよ。いろんな宝物が詰まっているすてきな箱だ。でも年をとると、その宝物の置き場所が少しずつ変わっていくんだよ。うん、あぶないことじゃない、ちょっとした手助けがあれば楽しく暮らすことができるんだ。だって、1つや2つ、宝石がなくても宝の箱はきれいだろ。」
ところが、次の日、

⑨ 
みんなが気づかないうちにおばあちゃんがいなくなっていたのです。
一日中探しまわって、夜、公園まで行くと、おや、何か声が聞こえてきます。
「やーまーの はたけーの、くわのー みーをー」
「おばあちゃんの声だ」「おばあちゃん!」

⑩ 
そこは、こうすけが小さい時、おばあちゃんに抱っこされてすべった、山の形のすべりだいでした。そこに、おばあちゃんがぼんやりすわっていたのです。
「さあ、おばあちゃん、家に帰ろう。キンコの家に帰ろう。」

⑪ 
みんなは歌いながら帰りました。
(ご一緒にどうぞ)
「ゆうやーけこやけーのあかとんぼー おわれーてみたのはーいつのひーかー。 
やーまーのはたけーの くわのみーをー こかごーに つんだーはー まぼろーしーか」

⑫ 
その次の日、お父さんとお母さんは、役所の人と相談して、駅の近くの大きなお家に、おばあちゃんと一緒に行きました。そこのお薬で治るといいなあ、もう迷子にならないといいなあ。
 やがておばあちゃんはそこに引っ越しました。そこは、体の弱った人のための家でした。よそのおじいちゃんおばあちゃんもいて、みんなでお茶を飲んでいました。何だか楽しそうだったなあ。

⑬ 
その大きな家に入ると、窓から、飯綱山が見えます。そのまま まっすぐ するするっと、すべって降りられそうです。今度、僕がおばあちゃんを抱っこしてすべってみようと、こうすけは思いました。おばあちゃん、その時はあの歌を一緒に歌うんだよね。
                              おしまい
・・・・・・・赤とんぼの歌をもう一度ご一緒にどうぞ。(歌う)

長野県飯綱町立飯綱病院/原案 
山の名前は、お近くの山に読み換えてくださって結構です。 
製作経緯:

参考文献:
『コミュニケーションからはじまる認知症ケアブック』清水裕子/著(学研)
『目からウロコ!まちがいだらけの認知症ケア』三好春樹/著(主婦の友社)


記録など:
今回初めて、絵の画像をデジタル情報にして記録しました。駅前の「ストックプラス」というところでやってもらいました。
美濃版サイズなので、微妙に単価が一般B4サイズと違うのですが、
デジタル記録が一枚あたり180円、プリントアウトが240円位でした。

先にコンビニでコピーしたところ、『明和義人ものがたり』で苦戦したのとおなじように暗い画面が真っ黒にコピーされてしまいました。それで試しに「写真画質」に設定すると今度は薄すぎてダメでした。
けれど明るい画面は、コンビニコピーの方がきれいです。難しいものですね。
著作権は病院と私が持っていることになります。複製の希望が来たらどうすればいいんでしょうか。とりあえず1巻は埼玉の遠山さんにあげることにします。ちょっとアドバイスをもらったので。
 
白黒線画のうちに ぬりえ用に5巻だけ作っておきました。1巻は当会のSさんに届けて、Sさんに自由に塗ってもらいました。これは県の高齢福祉保健課に寄贈する予定。

少し前に同じ病状になって自然退会になった方がおられます。秋に、やはり家に帰らないというアクシデントがあり、大騒ぎでした。翌朝、近くのホームセンターの階段のところにすわっていたのが見つかりました。
「沼垂(図書館)に紙芝居を返しにいったつもりだったのか」と、どなたかがつぶやいた言葉が耳に残っていました。(他のモチーフは病院から送られた資料をもとに組み立てました)
きれいごとでなく、一緒の班の方はどれだけ苦労されたか、私などには想像できるものではありません。語ることが好きで朗読の会でも活動されていました。
ずいぶん昔、「次は何を語るんですか?」とタイトルを何気に尋ねたら、とつとつと金の瓜の話を全部こっそりと私だけに語られた。人間の数だけ語りがあるんだよね、と思うのです。
こんな形になってしまったけれど、そのひたすら語ることが好きで一生懸命だった姿は、誰にも何にも邪魔されるものではありません。紙芝居の物語の中で唄い語り続けてほしいと思います。

追記:
同日「紙芝居の窓」に「昔ばなし大学と家元制」という投稿をしました。どうか、皆様に考えていただきたいと思っています。
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