神奈川絵美の「えみごのみ」

松下幸之助氏と伝統工芸

さて、ここはどこ?


ごみごみした駅前を抜け、ほんの数分シーサイド寄りへ歩けば
もう別世界。

(私が写り込んでいますが

“できる”ビジネスパーソンが早足で行きかう汐留。
ランドマーク的な存在のシティセンターに、ほぼ隣接しているのが
「パナソニック汐留ミュージアム」だ。
今まで3~4回訪れているが、
民藝運動、オーストリアのアーツ&クラフツといった
国内外の工芸関係の企画展がいつも充実している。


今回は……

経営の神様と呼ばれる松下幸之助氏が
所蔵していた伝統工芸品の展示。
若いころから茶道に親しんでいた同氏の道具コレクションも
垂涎もの。

そして、
非常に貴重な「萬暦(ばんれき)赤絵」の水指と花瓶も。

中国の明時代後期の萬暦年間(1573-1619)に
景徳鎮で制作された歴史ある磁器。
この温かみのある作風が、明治に入って再評価され、
文人だけでなく、茶の湯のたしなみがある政財界人にも好まれたそう。


赤絵も素晴らしいけれど、
やはり、松下氏がその職人魂に共感し、後ろ盾になることを惜しまなかった
彼と同時代に生きた伝統工芸を担う作家(おもに関西)のコレクションは圧巻。
染織でいえば、森口華弘/邦彦、羽田登喜男、稲垣稔次郎
北村武資、志村ふくみ、芹沢けい介 などなど(敬称略)。


芹沢けい介の春夏秋冬の屏風。

前・中・後期で展示替えがあり、
私は3月ごろからこの企画展のことを知っていて、
(全期間の展示を観よう!)なんて、そのときは意気込んでいたのに、
すっかり忘れてしまって、すでに後期…

でも、志村ふくみさんの素朴だがオーロラのような
グラデーションが印象的な紬や、福田喜重さんの仄かなのに圧倒的な
気品があふれた刺繍訪問着を観ることができて良かった。
焼物では益子焼で父方の実家と縁のあるハマショー(濱田庄司)や
この春大阪出張の折、万博公園内の美術館で観た河井寛次郎、
大好きな富本憲吉の作品もじっくりと。


とりわけ見入ってしまったのはこの2点。
左は黒田辰秋の螺鈿の中次(茶入れ)。
右は江里佐代子の金彩色まり香合。
この繊細さ、ハガキの写真でも伝わるかと……。


戦中戦後の、物資の乏しい時代にも
品質の良いものをつくろう、と社員に呼びかけ続けたという
松下幸之助氏。
1950年代以降の大量消費時代、
松下氏が、使い捨ての風潮に疑問を感じていて、
職人魂のある丁寧なものづくりにこだわったことが、
「良質」と海外から評価される日本製品のブランド力を育てたのだなあと
つくづく感じ入る展示だった。
彼は1989年にこの世を去ってしまうが、
生きていたらその後のバブル崩壊、デフレ、海外廉価製品の流入を
どう思っただろうか。
そして、日本の伝統工芸が正直なところ“軽視”され、
継承もあやういことなども。

気骨ある松下氏のスピリットを感じるもよし、
そうそうたる有名作家の作品をシンプルに楽しむもよし、
期間は8月25日(日)まで。
暑い盛りですが、一見の価値ある展示だと思います。


※展覧会の概要は同ミュージアム公式サイトでもご覧いただけます。

コメント一覧

神奈川絵美
とうこさんへ
こんにちは
海外の蒐集家はすごいですよね。千葉であったピゲローコレクションとか。
まあ、まずは故郷の伝統工芸を守ろうということで、
各人が生活の中に一つでも出身地のものを取り入れるようにしたら、そして学校の授業で子どもたちが親御さんの出身都道府県の工芸を紹介しあうなんてことをやったら、見識が広まるでしょうか。思いつきですが…。
とうこ
http://ameblo.jp/toukolilas/
私も朋百香さんと同じく、妄想の世界では?!後世に残すために惜しまない!のですが・・・。
日本では、工芸品は美術館や展示会で観るものになってしまっているような気がします。どこかに渡ったものが里帰り・・・みたいな。
長く使い、慈しめるものを伝えていきたいです。
神奈川絵美
U1さんへ
こんにちは
パナソニック汐留ミュージアム、ご存知でしたか
いつ行ってもそんなに混雑していなくて、
見やすくいいところですよね。

大神社展も盛況のようですね。昔の青銅器や勾玉などを見ますと、日本人の物づくりに対する真摯な姿勢は、その当時から培われてきたのかなーなんて思います。
U1
伝統文化にふれる
http://blog.goo.ne.jp/u11953
こんにちは。
この国の優れた伝統文化にもっと関心を持たなくては、と思います。それらには着物文化が必ずかかわっていますね。
パナソニック汐留ミュージアムで行われる企画展には何回か出かけています。会場はそれほど広くはありませんが、とても充実した展示ですよね。

会場は違いますが過日大神社展を観ました。素晴らしいご神宝を観て、この国の工芸の素晴らしさを改めて感じました。
神奈川絵美
朋百香さんへ
こんにちは
そうですよね、異論もあるのかも知れませんが
一般の生活者には、日本の伝統工芸が
大事にされている実感がないなーと思います。
国にゆとりのないあらわれなのでしょうか。

でも朋百香さんは、長平庵のお屋敷を維持なさって
いること、素晴らしい貢献と思いますよ

朋百香
http://www.tomoko-358.com
絵美さま
私がもし大金持ちだったら・・・日本の素晴らしい
伝統あるものを支援し何とか後世に残す努力を
するのになぁ・・・と、また妄想の世界を彷徨ってしまうのですが、本当に作品を見るとその感性には
いつも感嘆してしまいます。
日本が世界に誇れるものなのに、なぜ国ももっと力をいれないのだろう?むしろ外国人の方が興味を
持っていますよね。使い捨てではない、良いものを
長く愛する精神を昔は大人が子供に教えていたのに
ねえ。
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