晴旅雨旅

爺の前に道は無し。爺の後にも道は消えかけて…枯れた中年爺の独り言

去りゆく映画館と生き続ける映画たちにアイを込めて

2010-03-31 15:45:16 | 大ナゴヤ大学
例年になく春風が冷たい名古屋駅の夕刻。平日にも関わらず、熱気がほとばしるピカデリー1(三井ビル7F)で開催された大ナゴヤ大学後期特別講座(2010年3月29日(月))
以下は私と妻との感想のミックス。

第1部 【日本を舞台(又は制作)にした外国映画たち】
 面白いという一言では上手く表現できない面白さ。おそらく、そのとき直接観ていたら「くだらん、ばかにするな!金返せ!」とか罵って席を蹴り、トイレに荒々しく放尿し、売店のお姉ちゃんを一瞥し、「次は絶対に面白くて楽しくて勉強になって、もしかしたら恋愛やお金儲けの参考になる映画を観るぞぉ!」と高らかに決意表明したであろうB級映画たち。
 しかし、そのカメラのレンズの向こう側に居る制作に携わった人たちが見えるのがB級映画なのかもしれない。どなり声で汗たらたら流しながら必死な姿…でも、全体のシチュエーションを想像すると滑稽極まり、最終的には可愛くさえ思えてくる映画人たち。

《作品別》
 「香港発活劇エクスプレス 大福星」
どうして香港のレンズを通すと日本はあれほどスローに見えるのかな?つまりは、香港のスピード感と日本のそれとの隔たりなのか。以前、勤めていた会社にジャッキーチェンそっくりな中国人の上司がいたことを思い出した。彼の仕事ぶりは新幹線そのものだった。
そして、新幹線と言えば…
 
「ハンテッド」
 坪井さん(シネマスコーレスタッフ)のおっしゃる通り、新幹線車中であることを忘れないで、と映画自身が語ろうとしているところが、カワイイ。自動ドアのシステムをぶち壊してしまう日本刀に投影される西洋人の畏怖がこそばゆい。

 「ミスターベースボール」
 3作品のうち唯一実際に観たことがある。確か、帰国途中の機内だったと思う。中日ドラゴンズは「ドベゴンズ」なんて言われていたことを思い出す。別に強くなくてもいいよな、ドラゴンズ。ひたすら皆で巨人と闘う姿を見せてくれ。阪神には負けてやれ。強きを倒し弱きを助ける「ドベゴンズ」に栄光あれ。
 
第2部【愛すべき2本立て上映たち】
 2本立てを観る楽しさ、という論は新鮮だった。冒頭にも書いた通り、かつてはB級映画を見せつけられた、という思いがあった。2本見せなくても1本でいいから入場料を半額にしろ、ということだ。もっとも学生時代を過ごした東京では同じ料金で1本だけのことが多かったので、名古屋の方がお得だなとは思っていたが。
 とにかく、まったく期待していなかった映画を観る(見せつけられる?)ということは、よく考えると豊かな映画の世界を味わえることができた幸せな時代だったのかもしれない。

《作品別》
「トゥルー・ロマンス」
ここでも、第1部と同じようにたくさんの映画の一部やダイジェスト版・予告編などを観させていただいたが、タランティーノの大ファンとしては、独断的に、これを取り上げたい。
タランティーノの「パルプフィクション」を観たとき、ストーリーは全く覚えていないが、無茶苦茶で面白かったということだけが頭に残っていた。それ以来、彼の名が少しでも出ているものは片端から観る、見る、ということになってしまっている。この映画についても、これを書き終わったら直ちにレンタル屋さんに駆け込むつもりだ。
予告編では、彼は脚本を担当していた。一つ忠告したい。この「トゥルー・ロマンス」、「パルプフィクション」、「キルビル」シリーズ、最近の「イングロリアス・バスターズ」を観たら絶対に“怖いもの無し”になってチンピラにも絡んでしまいそうな“勇気”をもってしまう“怖さ”がある(実際に絡んでも私は一切の責任は負わないよ)。この感覚は、鈴木清順監督の「けんかえれじい」と同じものだった。
 高橋英樹主演「けんかえれじい」は、30数年前に東京で学生だった頃、池袋の文芸坐で終電に乗り遅れてオールナイトで観た。満員で立ち見客もいっぱいだったように記憶している。画面に『鈴木清順』の名が出ると一斉に拍手と「異議無し!」の掛け声が溢れた。そのままデモの隊列を組みシュプレヒコールをあげて池袋駅を占拠してもちっとも不思議ではない空間ではあった…

「ニック・オブ・タイム」
 とにかく、ジョニーデップ。今も昔もジョニーだったら許せる。何をやっても許せる…

以上、まだまだ書き足らないが、このような素晴らしい企画にただただ脱帽。あの場に馳せ参じた映画ファンの中で目立った50代以上―垂涎の映画ポスターをカメラに収める人、年間300本観て集めた半券コレクションを見せてくれる人等々―皆とっても幸せな顔だった。
ピカデリーが消えていくのは確かに寂しい。今のシネコンの合理性にはついていけないこともある。しかし、懐かしむことが時代のブレーキになるのも避けたい。消えていくからこそ輝きを放つのかもしれない。
機関銃のように語ってくれた坪井 篤史(シネマスコーレスタッフ)さん、自分が最後の支配人になるとは夢想すらしていなかった森 裕介(ピカデリー 支配人)さん、ありがとう。

…墓場でも楽しく映画のシーンを味わえる予感がする初老夫婦より…