【日経新聞のインタビュー記事(2016/8/14)「元財務相の藤井氏『将来の大増税、明らか』」から思うこと】
<藤井氏の考えが多数派でも、日本は多数派の思うようには動かない不思議な国?>
野党は当然ながら、自民党を支持する財界人や学者だって、本当のところはこのままではヤバイと思っている。しかし、良い案が思いつかないだけだ。
何の裏付けもないのに、バラバラと金を蒔けば、明日にはどっさりと実が成る、というのは、おとぎ話の「花咲か爺さん」の世界だ。逆に、巷間に溢れるこのような俗論のレベルの低さに、常識ある人は「本当にそんな論理で経済政策を動かしているのか?」と危機感を強めている。
一般の人は、「政府には一流大出身の頭の良い人が大勢居るから、素晴らしい政策を立案して実行してくれるに相違ない」と思っているかもしれない。しかし、本当はその一人ひとりの頭の中は、「周りはどう動くか?」ということで占められている。「風」が間違っていようがいまいが、「空気を読む」ことが最優先。空気を読むあまり、物事の常識を見誤る。空気は常識と似て非なるものだ。
かくして、日本は貧困化を次世代にプレゼントすべく、せっせと金をばら撒くことしかできないのだろうか?
<以下は記事の抜粋>
藤井裕久・元財務相
「私は安倍政権は誤った経済観に基づいていると思っているんです。私に言わせれば、カネをばらまけば、経済がよくなるといった考え方。歴史をよく見てもらいたい。少し長くなりますが、消費税の歴史からお話しましょう」
「消費税を最初に言い出したのは誰か。戦後直後のシャウプ勧告です。まだ、欧州が(日本の今の消費税にあたる)付加価値税を導入していない時期に、占領軍が付加価値税を提言した。これは理想型を示したと評価できます。次に、佐藤内閣の水田三喜男蔵相です。消費税は公平だ、安定性があると言った。1ドル=360円の固定レートが崩れ、所得税は波が大きかった。大蔵省をえこひいきしていると言われちゃうけど、僕は水田(元蔵相)が好きなんだ」
「水田は財政の穴埋めに使うことを想定していたが、消費税を目的税として使うといったのが小沢一郎(新生党代表幹事=当時)です。世間的には評判が悪いんですが、細川内閣の時で、国民福祉税構想があった時に小沢が目的税を言い出したんです。その後、小沢の自由党が自民党と連立を組んで、自民党の中にも消費税を目的税にしようという考えに乗ってくれる流れができたんです。それが12年の3党合意につながるんです。自民党の実務者だった町村(信孝元官房長官)が言ったことをよく覚えています。こんな大きな法律は与野党合意じゃないとできないんだと。社会保障制度を支えるために、消費税を目的税にした。これが歴史です」
――安倍首相は消費増税の再延期を決めました。3党合意の精神は破壊されたんですか。
「安倍さんという人は、消費増税をつぶすということに、相当な執念を持っていると言わざるを得ない。伊勢志摩サミットで、世界経済はリーマン・ショックの時に似ていると言った。後で、官房副長官が否定したらしいですが、そんなことはどうでもいい。最終責任は総理なんですから。その時、ドイツのメルケル首相に、世界経済はリーマンとは違うと、たしなめられた。これが許せません」
――政府は経済対策を決め、日銀は追加の金融緩和をしました。アベノミクスを再起動する狙いです。
「安倍政権はカネをばらまいて目先を変えることには成功しました。一定の効果があったと言っていいでしょう。しかし、落とし穴の段階に入りました。昨年あたりから株価が落ちてきたことが証拠です。証券のプロ達に呼ばれた会合で、『こんなことしていて大丈夫なんですか』と質問されました」
「黒田(東彦日銀総裁)も(金融政策の限界を)分かっていると言わざるを得ない。これは、書いたっていいや。大蔵省に本当の幹部達の集まりがある、あるんだよ。僕は、黒田にこう言った。『君、分かっているじゃないか。財政を健全にしろと良いことを言ってくれている。だけど、君、ばらまいていたら、健全化にはならないんだよ。だって、(間接的に)国債買うんだろと。健全になるわけないんだよ』と、ひとつ言いました」
「その時は言わなかったけど、日銀は持っている国債の裏付けになる積立金を積もうとしていますよね。これは、国債の価格が落ちると日銀がみているからと私は思います。黒田は任命されたから(異次元の金融緩和を)やっているだけです。僕の隣に座っている人が、やめなきゃ駄目だよと。やめるというのは、政策じゃないですよ。総裁をやめなきゃ駄目だと。彼(黒田氏)は、うんともすんとも言いませんでした。こういうやり取りが、今の(政策の行き詰まりの)現状だと思います」
――金融政策はどうすべきですか。
「即やめるべきだと思うが、それはできないと思う。米国はバーナンキ(米連邦準備理事会議長)がいつやめるか、道筋を示したでしょ。イエレン(議長)は、実際に利上げした。こうやってあらかじめ出口を言っておくというのは、1つの方法だと思います」
――話を戻しましょう。消費増税を再延期して、財政は再建できますか。
「仮に19年10月に消費税を10%に上げても、20年度の基礎的財政収支の黒字化なんてできっこない。将来の大増税は明らかだと思う。金利はいつ突然上がるか分かりませんよ。格付け会社が正しいとは言いませんが、韓国や中国よりも日本国債は下なのに、信頼があるのは、日銀が買っているからです。いつかは爆発する。いつ爆発するかは分かりません。国債だけじゃなくて、民間の借金も大変なことになると思います。インフレは、ちょっと先でしょうね。でも、これだけカネをばらまけば、インフレになるというのは歴史が証明しています」
――藤井さんはインフレの経験はありますか。1946年には、預金封鎖・新円切り替えがありました。日本の財政は実質的に破綻し、インフレも起きたと思いますが、ご記憶はありますか。
「終戦時は中学1年でした。安倍総理のおじの西村正雄(故人、日本興業銀行頭取)と同級でね。戦時中、死ぬまでに汁粉は食えるかなんて、そんな話をしていましたよ。食えないだろうと。そして、戦後、爆撃はなくなったけど、食い物がないのは同じでしたね。新円切り替え後でも、食料事情は厳しかったです。値段も上がったと思います。500円生活なんて言われました。値段が上がったとか、金銭のやりくりが大変だったというよりも食い物がなかったという記憶が強いです。ヤミ米を母親と一緒に買い出しに行って、警察に見つかってとられちゃったとか、そんな記憶が残っています」
――新円切り替えは、いつ知りましたか。ラジオ放送ですか。
「その通りです。まわりの人もみんな、知らなかったと思います。突然でした。切り替えと言っても、新円なんて発行できるわけないんです。紙、証書を貼った紙幣を使うんです。これはよく覚えています」
「後になって振り返ると、石橋湛山(元首相)がサイパンが陥落した1944年に、負けた後の経済政策を勉強しなくちゃといって、大蔵省に戦時経済調査室を作らせたんですね。戦争でカネがばらまかれて、財政は相当膨らんだ。預金封鎖と新円切り替えは、経済を収縮するために用意されていたものなんです。一般庶民は突然来た印象しかありませんが、準備していたんですね」
「歴史をみれば、カネをばらまいた後は、落とし穴があるということです。佐藤、田中内閣の時もカネをばらまいて、その後、マイナス成長になり、インフレが起きた。プラザ合意後もそうです。この点、高橋是清は偉かった。何が偉かったかというと、カネをばらまきました。今で言うヘリコプターマネーですね。その後、整理しようとしたんです。これが偉かった。経済が戻ったから、財政を締めた。当時の財政は半分が軍事費ですからね。だから、殺されちゃった。今もカネをばらまいている。私はいつまで生きているか分かりませんが、次の世代はかわいそうですよ。大増税が待っているんですから」