強烈な斜度を誇る激坂、奥多摩のラスボス・・・そんな感じで知名度は高いものの、その実態は意外と知られていません。
奥多摩地区のメインとなる道路は何といっても奥多摩周遊道路ですが、これは武蔵五日市から都民の森・風張峠を経て奥多摩湖に至り、広い道幅と適度なワインディングがあることから、自転車のみならずオートバイや車にも人気の観光道路です。
一方、風張林道はその奥多摩周遊道路をショートカットして一気に風張峠に至る狭い林道です。何が悲しくてわざわざこんな道を走るのか、と普通の人なら思うでしょう。
さらには、この道はストリートビューで見ることができません。
かくして、登ったことがあるモノ好きな自転車乗り以外にとってはイマイチ実態がわからず、
スタート地点のこのイメージばかりが先行しているように思えます。
この檜原村役場の交差点を右に行けば風張林道、左に行けば都民の森。
ここには何度も来ているのですが、そのたびに
「風張林道なんて怖い所に行かなくてもいいじゃないか、なごやかに都民の森を走ろうぜ」
という天使の声、あるいは悪魔の囁きが聞こえて風張林道には行かず仕舞いでした。
しかし、風張林道などというメジャールートをいつまでも走らないのも考え物。今日こそは決着をつける!とばかりにここを右折。
いままでここを右折したのはちとせ屋へ豆腐ドーナツを食いに行った時くらいのもので、その先は全俺未踏の地です。ベールに包まれていた地帯に遂に足を踏み入れました。
奥多摩周遊道路から外れたとはいえ集落が点在して山奥感はそれほどではありません。
天気は絶好、晩秋にしては汗ばむほどの陽気・・・この季節はウェアの選択が悩ましいですが、今日はちょっと重装備すぎたかもしれません。
林道入り口が近づくにつれ、段々と民家がまばらになり傾斜もきつくなってきました。きつい所では10%くらいになるので、さっさとインナーに落として足を温存していきます。
一方で、もうすぐ「あの」風張林道に挑まねばならないのかと思うと気が重くなってきます。見頃を迎えた紅葉すらも、敗退して討死する暗喩かと思えてなりません。
そしてやって参りました、(首都圏のモノ好きな自転車乗り限定で)あまりにも有名な風張林道の入り口。
これを見たので今日はもういいんじゃないかな、そんな気分に既になっていました。
しかしここで引き返せば先ほど抜かしたグループとすれ違うことは避けられず、アホだと思われるのは必定です。もう前に進むしかありません。軽くストレッチなどしてから登坂を開始します。
登り始めて少し走るとあっという間に斜度が上がり10%を突破。しばらくは12%~15%くらいが続きます。
しばらく進んだところで視界が開ける区間がありましたが、15%近い傾斜があるので走りながらの撮影は困難を極めます。
これを見越して今日はDSC-TX30を持ってきました。6年前に買った古いカメラですが、コンパクトで片手操作が可能なのでこういう時にうってつけです。
このカメラをもってしても、かなりフラつきながらの撮影になってしまいましたが。
激坂っぽくない風景ですが、このあたりは20%近い勾配で風張林道最大の難所。脚付きだけはしたくないので、全身を使った超スロー登坂に切り替えてよじ登っていきます。
きのこセンターあたりが一番キツいと聞くので、そろそろ見えてくるはず・・・そうじゃなかったら泣くぞ。
風張林道とよくセットで語られるきのこセンター。知名度の割に写真をあまり見ないな、きっと激坂ゾーンにあって写真撮影する余裕が無いのだろう。
・・・そう思っていたのですが、意外なことに緩斜面にありました。一番キツいのはきのこセンターの「手前」だったんですね。
きのこセンターを過ぎてしばらくすると再び斜度が上がり10%オーバーの坂が始まりました。ここから先は交通量が少ないのでしょう、狭い道に落ち葉が積もり一気に林道ぽくなっていきます。
子ノ権現のような超激坂は出てこないので瞬間的なパワーはさほど必要ありませんが、とはいえ10%以上の勾配が延々と続くのでのんびりサイクリングと言うわけにもいきません。無心になってペダルを回していると、頭の中で何故かSmooth Criminalが流れ始めました。
いやなんでこの曲なんだよ。秋晴れのサイクリングなんだから他にふさわしい曲があるだろ、日曜日よりの使者とか風になりたいとかさぁ。
誰もいなかったとは思いますが、奇声をあげているところを見た方がおられましたらマイケル・ジャクソンなので許してやってください。アォ!
脳内コンサートが終わるころになり急に樹木がまばらになって視界が開けてきました。
これがマチュピチュ区間と言われているところでしょう。樹木はもちろんガードレールすら無いので少し怖いのですが、他に誰もいない中でこの風景を独り占めできるのはここまで登った人へのご褒美と言うことでしょうか。
マチュピチュ区間は勾配が緩いので息を入れつつ風景を楽しめるのですが、しかしここで終わりではありません。もう終盤のはずだし最後くらいは緩斜面になるんじゃないかな?などという甘い期待は打ち砕かれ、再び勾配が上がり激坂ヒルクライムが再開されます。
マチュピチュはもう見たしもうゴールでいいじゃん、と文句を言いつつ登っているとエンジン音が聞こえてきました。この道には車もオートバイもいないので、奥多摩周遊道路が近づいているに違いありません。と言うことはあと少し・・・!!
といってもスパートする余裕もなく、ふらふらとゴールしました。やっと終わった・・・
奥多摩の数ある峠の中で、風張林道はラスボスとよく言われます。
確かに風張林道より平均斜度が高い道はいくつも存在します。しかしそういうのは鳥居観音だのラピュタ坂だのといった1kmにも満たないごく短い坂ばかり。
平均斜度が12%もあるのに距離4.3km、これだけの斜度と規模を併せ持つ道はなかなかありません。最終区間に現れる絶景もあいまって、奥多摩地区の王者にふさわしい坂でした。
というわけで次回から平和な都民の森に戻ることにします
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