どこか遠くでフッチボル

鹿島サポだが裏の顔は日本代表サポ組織「食う軍」の司令。徒然なるままボソボソと。

珠玉の指南書・・・小説家 開高健

2005-11-04 | etc
スポーツ雑誌“Number”は、スポーツ以外のビデオ等も発売している。
その中に一本のビデオがある。
軽い気持ちで10年以上前に手に入れたビデオ。
しかしこのビデオ、人生の指南書のような趣を発し、
テープが伸びる程、繰り返し見る事となった。


ビデオ版フィッシング紀行、【河は眠らない/開高健】がそれなのだ。






大物のサーモンを探し、カナダで川に浸る同氏を追ったものだが、
トツトツと語られる言葉には、身体に染み入ってくるものが多い。

20代の中頃、何かにもがき慌てていた自分に、
このビデオから開高健が語りかけてきたものは、本当に大きく響いたのだ。


人生に起こるさまざまな出来事・・・その出来事に無駄はない。
彼が言う。
森に倒れた巨木は用がない邪魔物ではない。
森を看護する木、ナース・ログ(nurse-log)となって森を育てる。
画面から語りかけてくる氏の言葉は・・・。



森を歩いているとよくわかるんですけれども、
斧が入った事がない、人が入った事がない森と言うのがそこらじゅうに一杯ある。

土が露出していないで、シダやらなんかに覆われていますが、
草とも苔ともつかないもので森の床全部が覆われている。
それから風倒木が倒れて、倒れっぱなしになっている。

これが、実は無駄なように見えて実に貴重な資源なのであって、
風倒木が倒れっぱなしになっていると・・・

そこに苔が生える、
微生物が繁殖するバクテリアが繁殖する、
土を豊かにする、
小虫がやってくる。
その小虫を捕まえるためにネズミやなんかがやってくる、
そのネズミを食べるためにまたワシやなんかの鳥もやってくる、
森にお湿りを与える、

乾かない。
そのことが河を豊かにする。

もう全てが繋がりあってる。

だから、あの風倒木の事を、森を看護しているんだ、看護婦の役割をしているんだ、
というのでナース・ログと言うんですけれども、
自然に無駄なものは何もない・・・と言うひとつの例なんです。

そうすると、人間にとってナース・ログとは何でしょうか?

無駄なように見えるけれども実は大変に貴重なもの、
と言う物も人間にはたくさんあるんじゃないか?

それぞれの人にとってのナース・ログ、とは何か。

無駄を恐れてはいけないし、無駄を軽蔑してはいけない。
何が無駄で何が無駄でないかはわからないんだ。

ここがひとつの目の付け所ですね、これは大事な事ですよ。
無駄な事してると思う事はないんであって、
いつかどこかでまた別の形で甦っているのかもしれないんだ。

だから、人の心にとってのナース・ログとは何か?
こういう映画を見るのもナース・ログですよ。

by 開高健(河は眠らない/冒頭ナレーションより)




このビデオ、フィッシング紀行の体勢をとってはいるが、
釣りが好きでなくとも楽しめる。
現に友人数人に貸したところ、その全ての友人は同ビデオを購入してしまったのだ。
同氏のシリーズはビデオ化されて入るが、現在で手に入るものは少ない。
この“河は眠らない”も現在では売られていない・・・手に入らないのだ。
DVD化を期待したいシリーズだな。



何かに迷った時。
このビデオをセットする夜がやって来る。
ウォッカ片手に、川の流れる音を聞き、開高氏の言葉を聴く。
さて、今夜は何を語りかけてきてくれるのか。